2015年8月29日土曜日

理学療法評価と課題設定(Whole task , Part task , Component)


私たちの評価は、ボトムアップ評価とトップダウン評価に分けられるが、臨床的に多く行われる評価はトップダウン評価である。詳しくはこちら

トップダウン評価を行う際は、動作観察・分析が重要であり、その動作課題の理解は重要である。

今回は動作課題(task)についてまとめたいと思う。

動作課題にはwhole task(全課題)part task(部分課題)がある。私たちが動作分析・課題を行う際、whole taskとpart taskの把握は重要である。
例えば、whole taskがトイレ動作だとする。そのpart taskが移乗動作であり、移乗動作に問題があるとする。これだけの把握では、移乗動作に問題があるという事が分かるだけで、主要な問題点、機能障害の把握はできない。そのため、主要な問題点、機能障害を把握するためにはcomponent(構成要素)を理解する必要がある。
 
歩行のcomponentを考えてみる。
歩行(足を一歩前に出す)を行うためには、立脚側の足関節外反・股関節内転に伴い骨盤が立脚側へ偏位し、重心が立脚側足底へ移動する。体幹・頸部は立ち直りが起こり伸展位をキープする。また、立脚側足関節背屈曲・股関節内旋により、重心は前方へ移動。これにより、遊脚側骨盤の前方回旋が起こり、遊脚が可能となる。遊脚時、clearanceを確保するために骨盤は水平位に保持する。このように1歩出すためには、多くの関節アライメントの変化が起こり、それを可能にするためには様々な筋群の活動が必要となる。
また、神経メカニズムでは、まず①皮質橋網様体脊髄システムが働き、抗重力伸展位を保ちながら重心を支持脚へ移し、動作の正しい方向付けを行う。②重心の変化は、前庭脊髄システムを働かせ支持脚の抗重力伸展活動を強める。③皮質橋網様体脊髄システムおよび前庭脊髄システムにより、一側下肢で姿勢をコントロールすることが可能となったら、皮質延髄網様体脊髄システムにより遊脚肢は支持をすることをやめ、空間で円滑に姿勢筋緊張をコントロールできるよう調整することにより1歩前に出すことが可能となる。詳しくはこちら
このように1つの課題を行うためには、多くのcomponentが必要である。



 

 

そのため、part taskとはwhole taskの一部を抜き出した動作ではなく、whole taskを行うために必要なcomponentを2つ以上含んだ課題と理解すべきである。

例えば、座位でのバランス能力を見ると歩行に必要な体幹の機能を評価することも可能であるし、起立や着座動作では、Feedback系やFeedforward系の評価が可能である。

詳しくはこちら
 
part taskをいくつか組わせて評価・分析を行うことで、主要な問題点を把握することができ、どういう姿勢・課題でどこから治療を行えばよいか把握するという、クリニカルリーズニングを行うことができる。
 
本日はここまで。
続きはまた次回。。。
 
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2015年8月10日月曜日

姿勢制御と単関節筋

今回は、姿勢制御における単関節筋についてまとめたいと思う。

ヒトの身体には単関節筋と二関節筋が存在する。
単関節筋と二関節筋の働きは異なり、単関節筋は重力対応のために生まれた筋であり、二関節筋は制御担当のために生まれた筋であると言われている。
実際、長期臥床患者では二関節筋よりも単関節筋の萎縮が激しく、二関節筋を主体とした関節運動を呈している場合が多いと言われている。

また、姿勢制御、特にクラシックバレエなどのより高いレベルの姿勢制御を必要とする場合には、選択的な運動が必要となるが、選択的な運動には単関節筋によるコントロールが必要である。
たとえば、二関節筋によるコントロールでは、股関節屈曲や外転時に骨盤の後傾や拳上が生じてしまい、バレエを踊ることは困難となる。つまり、二関節筋によるコントロールでは、骨盤と下肢および体幹の選択的な運動は困難で姿勢制御を行うためには不向きであり、単関節筋による選択的なコントロールが必要となる。

さらに、疼痛を有する患者の多くは、単関節筋と二関節筋のバランスが不均衡で、二関節筋を多用する傾向にあると言われている。二関節筋によるコントロールでは、運動の中心が各関節に位置せず、関節に負担をかけてしまい疼痛を有する場合が多い。そのため、疼痛や不安定性の改善には単関節筋やローカルマッスルなどの細かなコントロールができる筋のトレーニングを行うことを提唱しているものが多く存在する。

つまり、単関節筋重力環境下における姿勢制御のために存在しており、適切にコントロールしていくためには単関節筋への評価・介入が必要となる。

以上、姿勢制御と単関節筋についてのまとめを行った。
様々な動作時の単関節筋の役割についてのスライドを下記に示しておくので、興味のある方はご参照ください。




今回参考にさせて頂いた書籍はこちら
DLmarketで購入

2015年7月27日月曜日

第5回ボバース研究会学術大会


7月25、26日にホテルイースト21東京で行われた第5回日本ボバース研究会学術大会に参加し、演題発表を行った。
 
インストラクターの先生方を前に発表を行うのはかなり緊張しましたねぇ・・・。


 
私の発表は、ブログでも何度か書いている姿勢コントロールのメカニズムに基づいて評価・介入を行った結果をまとめたもので、自分がまとめてきたものが正しかったのかどうか気になるところであった。
 
様々な先生方よりご意見を頂き、大変有意義なものであった。
今までブログで書いてきたこともおおよそOKであったが、神経メカニズムについての表現・ニュアンスはインストラクターの先生方のなかでも多少異なるものがあった。


 
神経科学の分野は急速に発展しているが、まだまだ解明されていない部分も多く、その解釈も研究者によって異なることもある。
 
今回の経験で、自分はまだまだ情報不足であることを痛感した。
常に新しい情報を取り入れ、何を根拠に評価・介入を行っているのか明らかにしておくことが大切である。
 
今後、英語の文献等も含めて、読みあさり知識を深めて行こうと思う。
得られた知識は少しずつブログにアップしていきたい。
 
本日はここまで。
続きはまた次回。。。

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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法 

2015年7月23日木曜日

理学療法はサイエンス?それともアート??

先日、休暇をいただき沖縄の石垣島に訪れていた。

石垣島の海を堪能するため、私たちはシュノーケリングのツアーに参加した。
参加した日は台風の影響が少なからずあり、波が高く流れが速い場所があったり、突然雨が降ったりすることもあった。

しかし、ツアーのガイドさん達は天候などを瞬時に判断し、安全にきれいな海を楽しめるポイントを判断しながら私たちを案内してくれた。
あんなに広大な海の中で、安全でしかもきれいなポイントを探し当てることができる彼らの経験・能力はすばらしいものであった。

天候は今一つなところもあったが、私たち参加者は大満足で最高の1日を過ごすことができた。

そんな経験をした帰路の途中、私たち理学療法士はどうなのかふと考えた。


●理学療法はサイエンスであり、アートである●
理学療法はサイエンスであり、アートであると表現されることがある。
サイエンスの部分は、近年、EBM(Evidence Based Medicine:科学的な根拠に基づく医療)やガイドライン等にてその必要性が示されている。これらでは、動物実験から有用と思われるとか学会等で権威のある方が推奨したというものは根拠にはならず、患者を対象としたランダム化された臨床試験において、期待した結果を証明できたものがエビデンスとして評価され蓄積されていくようである。
個人的には動物実験などの基礎科学的な知見を基に臨床推論を行いながら実践していく理学療法もサイエンスに含まれるように思うが、仮説・検証を行っていく際にはどうしても経験が重要となるためどちらかといえばアートに含まれるようだ。
アートの部分で注目されているのは、NBM(Narrative Based Medicine:語りに基づいた医療)である。これは、患者との対話を通じて、病期の背景や人間観を理解し、患者が抱えている問題に対して全人的(身体的、精神的・心理的、社会的)にアプローチしていこうとする臨床手法である。

理学療法士という職業において、“治す”という事に関しては、根拠となるデータが十分にそろっていないことが多く、特に脳卒中片麻痺患者においてはまだまだ分かっていない部分の方が多いと思う。そのため、障害とどのように向き合うか、障害とどのように付き合いながら生活をしていくかという部分も重要となり、そのためにはNBMのような患者の語りに耳を傾けながら、患者が求めていることに対して、最も可能性が高いであろうアプローチを選択していくことが重要であると思う。

サイエンスであろうが、アートであろうが、患者が求めることに対して最大限の力が発揮できるよう努めたいと思う。



 
 
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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法
 

 

2015年7月10日金曜日

脳卒中患者の体幹機能と歩行能力

体幹機能と歩行との関係についてもう少しまとめたいと思う。

Perryは、歩行中の身体を①上半身と骨盤と②骨盤と下半身の2つの機能単位に分けており、上半身と骨盤をPassenger unit(乗客)、骨盤と下半身をLocomotor unit(機関車)と表現している。さらに、歩行中Passenger unitのアライメントこそ、Locomotor unitの筋活動を左右する最大の要因であるとも報告している。
また、その他にも体幹での制御を必要とする座位での非麻痺側上肢側方リーチテストのリーチ距離と歩行との関係を調べた研究があり、歩行自立群と非自立群ではリーチ距離に有意差が認められたと報告されている(三ツ川ら 2010)。

このように体幹機能と歩行との関係を示した報告は多数あり、体幹機能と歩行との間には密接な関係がある。

●非麻痺側上肢側方リーチ時の構成要素●
歩行との関わりが深い、非麻痺側上肢側方リーチ時の構成要素について細かく分析を行ってみたいと思う。
まず、上肢を拳上する際、三角筋の活動に先行して拳上とは反対側の脊柱起立筋の筋活動を認めるとされており(Balen'Kiiら1967)、リーチ動作に先行した反対側体幹の安定が必要である。
また、側方への重心移動時には両側腹直筋、腹斜筋の筋活動による上部体幹の安定に加えて、重心移動を行う側(側方リーチを行う側)とは反対側の腹斜筋群および腰背筋群の活動による骨盤のコントロールが必要である。(体幹機能の謎を探る:アイペック)

つまり、脳卒中片麻痺患者の歩行獲得のためには①動作に先行した麻痺側体幹の安定性と②麻痺側腹斜筋群や腰背筋群による骨盤のコントロールが必要で、予測的な姿勢コントロールの獲得が必要である。
姿勢制御に関する詳しい情報はこちら↓
http://sukecchi2003.blogspot.jp/2015/03/blog-post_26.html
http://sukecchi2003.blogspot.jp/2015/05/blog-post_7.html
http://sukecchi2003.blogspot.jp/2015/05/blog-post_14.html


本日はここまで。

続きはまた次回。。。

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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法

2015年7月3日金曜日

脳卒中急性期リハは早期の立位・歩行訓練だけではない

今回は脳卒中急性期のリハビリについてまとめたいと思う。

脳卒中ガイドラインでは座位.・立位、装具を用いた歩行訓練をできるだけ早期から積極的に行うことが推奨されている。
また、早期に歩行が自立しない限り、廃用性萎縮は入院2週間目には明らかで、その回復のには歩行訓練開始までの期間の3倍以上を要すると言われており(近藤ら 1997)、立位.・歩行訓練は特に廃用予防の為には重要である。

しかし、急性期脳卒中患者には、症状の増悪や合併症、血圧コントロール不良などにて積極的な離床が行えない場合もしばしば経験する。

そういった場合、積極的な離床ができないからといってベッド上安静にしたり、ROM訓練のみしか実施しないという状況であれば、患者の回復を妨げてしまう。

それではどのようなアプローチを行えば良いだろうか?

前回のブログでも示したが(前回のブログはこちら)、将来的な歩行獲得の為には急性期のうちに安定した座位保持ができる程度の体幹機能を獲得しておく必要がある。

そのため、積極的な離床が行えなくても体幹機能向上へ向けたアプローチを行う事が重要である。

●体幹機能向上に向けたアプローチ●
発症早期の脳卒中患者を対象に臥位や座位にて体幹機能向上に向けたアプローチを行った群とそうでない群とを比較した研究がある。
アプローチ群では、臥位にて寝返りやブリッジなどの運動座位にて骨盤の選択的な運動やリーチ動作などの座位バランス練習を実施した。コントロール群では他動的な関節可動域訓練や電気刺激を実施したどちらの群も1回30分間のアプローチを週4回実施し8週間継続した。
介入の結果、アプローチ群はコントロール群に比べ、有意に体幹機能の向上を認め、立位バランスや歩行能力の改善を認めた。
(Saeys W et al.:Randomized controlled trial of truncal exercises early after stroke to improve balance and mobility.Neurorehabil Neural Repair,2012,26(3):231-238 )

つまり、立位や歩行訓練が困難な状態でも、臥位や座位にて体幹機能向上に向けたアプローチを実施することで将来的な立位バランスや歩行獲得へ向けたアプローチが可能であるという事である。

また、歩行を優先的に実施した群と起居・移乗などの基本動作を優先的に実施した群を比較したところ両者ともに運動機能、移乗・移動能力、ADLが向上し、プログラムの差異による違いは認めなかった(平野ら)という報告もあり、必ずしも立位・歩行訓練を積極的に実施しなくても、基本動作に積極的に関わることで将来的な歩行・ADL向上につながると思われる。


本日はここまで。

続きはまた次回。。。

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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法

2015年6月26日金曜日

脳卒中患者の予後予測

今回は脳卒中片麻痺患者の予後予測についてまとめたいと思う。

予後予測の研究は数多くあるが、今回は歩行獲得に関して私が参考にしているものを紹介したいと思う。

●先行研究●
初診時座位バランス機能が良好であれば約3週間、座位保持可能であれば6週間で歩行可能となり、座位不能でも3週間以内に可能となれば2カ月で歩行レベルで自宅復帰となる(中島 1999)

発症4週までに座位が自立した症例の93.5%は歩行自立となる。また、6週以降に座位が自立した群より歩行用介助者が多くなり、7週以降より歩行自立例がなくなった(藤本 1995)

どちらも座位保持能力の評価による歩行の予後予測で、3~4週以内に座位保持が獲得できれば歩行自立となるといえる。
つまり、急性期入院中に座位保持が獲得できるか否かが、その後の歩行獲得を左右するということである。

その他にも基本動作の評価にて歩行獲得までの期間を予測したのもなどもある。


いずれにしても座位保持や立位保持の評価は、体幹機能を含んだ姿勢筋緊張の評価であり、急性期においては姿勢筋緊張のコントロールを高めることが重要であるということであろう。

以上、予後予測についてのまとめを行った。

私は今回紹介させていただだいたデータを予後予測のためというよりは、歩行獲得のために急性期リハで最低限獲得しておかなければならない能力として把握しており、最低限の目標設定として利用している。

また、今回紹介させていただいたものは、脳の損傷部位や発症直後の能力ではなく、ある程度のリハビリ期間を経て獲得した能力が歩行獲得できるか否かを左右するというものである。これは、私たち理学療法士が適切にアプローチを行い機能を高めることで、患者の機能予後を変えることができるということであり、私たちの存在意義を示すためには重要なことであると思う。

患者に真摯に向き合り、機能向上に努めることが大切であると思う。

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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法

2015年6月19日金曜日

覚醒と姿勢コントロール

当院は急性期の病院であり、覚醒・意識レベルの低下を認める症例を多く経験する。
よく新人や学生より「覚醒を上げるために坐位(立位)をとります!」という事を耳にするが、なぜ抗重力位をとると覚醒が上がるのか、理由が定かでない者も多い。

今回は抗重力位と覚醒との関わりについてまとめたいと思う。

●覚醒と脳幹網様体●
覚醒や情動などをコントロールしているのは上位脳である大脳皮質や辺縁系であるが、覚醒状態の維持には脳幹網様体の興奮が必要である。この脳幹網様体の興奮が視床を介して大脳全体を興奮させることで、覚醒状態を保ち、注意や認知、情動のコントロールが可能となる。

●脳幹網様体賦活系と神経伝達物質●
脳幹網様体賦活系の作用は、神経伝達物質によってコントロールされている。この神経伝達物質は、モノアミンノルアドレナリンセロトニンなど)やアセチルコリンなどがある。


モノアミン作動系は、主に覚醒状態の維持や覚醒の開始に関連していると言われている。アセチルコリン作動系は覚醒レベルの上昇に関わり、主に新しい刺激に対して一時的に脳の興奮性を上昇させる作用があると言われている。

●姿勢筋緊張と脳幹網様体賦活系●
脳幹は覚醒のコントロールだけではなく、自律神経や姿勢筋緊張のコントロール、摂食などにも関わっている。
特にモノアミン作動系は姿勢筋緊張のコントロールに関わっており姿勢筋緊張の向上を図るような抗重力位をとることでこれらを刺激し、神経伝達物質の放出を促すことで、覚醒の向上を図ることが可能となる。

以上、覚醒と姿勢コントロールの関わりについてのまとめを行った。

覚醒を促すためには脳幹網様体を機能させることが重要で、我々理学療法士は、姿勢変化を通じて脳幹網様体の機能活性化に関わることが可能である。覚醒を促すためにも早期より理学療法士の核である基本動作に積極的に関わっていくことが重要であると思う。


続きはまた次回。

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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法

2015年6月13日土曜日

脳血管障害に対する装具療法

先日行われた学会で、装具についての発表が多く行われていたので、今回は装具についてまとめたいと思う。
 現在は様々な装具・継手が開発されており、その利用方法も様々である。
 今回は私の装具に対する考えをまとめていく。

●装具の選択●
まずは装具利用に対する私の意見を述べたいと思う。
近年は長下肢装具が再び(?)クローズアップされることが多く、先日の学会でもシンポジウムや研究発表で多く議論されていた。しかし、私は必ずしも長下肢装具を利用しなければならないとは思わない。例えば、ハンドリングが上手であったり、2人で介入できるなど人的な環境設定によって姿勢・運動のコントロールが可能であれば、長下肢装具などの手厚い物的な環境設定は必要ないと思う。

しかし、ハンドリングがうまくなく、人的余裕もない場合や病棟生活などの治療場面以外で機能を高まる場合には装具などの物的な環境設定が必要である。



つまり、必ずしも長下肢装具などの手厚い物的環境設定を行わないといけないわけではなく、患者の能力やセラピストの能力に応じて環境因子を整えながら治療を展開することが大切であると思う。

●治療用装具と機能代償用装具●
装具には治療用装具と機能代償用装具という2つの利用目的がある。
治療用装具は、歩行獲得を目指すための運動学習を促すことを目的とする利用方法で、装具による適切なアライメントの矯正および関節自由度の制約により物的な環境因子を整え、課題の難易度の調整を行うものである。
機能代償用装具は、障害により失った機能を代償することを目的とする利用方法で、患者の生活スタイルに合ったADLを最大限に発揮できるよう調整を行うことが求められる。
装具の選択の部分で述べたことと重なるところはあるが、治療用装具と機能代償用装具では利用目的が異なるため、治療場面と生活場面(病棟生活も含む)では同じ装具を利用しないといけないわけではない。特に治療場面ではどのような神経科学的な背景に基づいて、どのような機能向上を求めているかを考えながら装具を選択する必要があると思われる。

●長下肢装具●
メリット
①膝関節の支持性が低下しているものでも麻痺側へ荷重をかけることが可能。
②モーメントアームが長くなるため、短下肢装具よりも足関節・股関節の動きを引き出すことができる。
足関節の動きに対する股関節・体幹の動きを学習させることができる。
つまり、長下肢装具を利用すると、立脚の難易度を下げることが可能で、立脚時のダイナミックな動きを誘導することができ、足関節股関節・体幹感覚統合を図ることが可能である。
デメリット
①膝関節が固定されるため、立ち上がり動作遊脚時の動作の難易度は高くなる
②動く際の足関節・膝関節・股関節の感覚統合は困難。

●短下肢装具●
メリット
足関節背屈角度の調整により、立脚・遊脚の難易度調整が可能。
  底屈を制動 ⇒ 遊脚容易性が得られる
  背屈を制動 ⇒ 立脚安定性が得られる
②剛性と制動を高めることにより、荷重時立位の安定性を得ることが可能。
③ウェッジなどの調整により側方動揺のコントロール可能。
④継手の種類によっては、足部の機能を補助することも可能。

●姿勢コントロールと装具療法●
脳卒中の治療において姿勢筋緊張のコントロールは重要であり、それはハンドリングなどによる介入も装具による介入も同様である。姿勢コントロールについてはこちら
装具を利用する1番のメリット(特に長下肢装具)は、支持性が低下している状態でも適切なアライメントを保ちながら荷重することができることである。これにより、荷重情報が背側脊髄小脳路を介して前庭核に伝えられ姿勢筋緊張の促通を図る事が可能である。つまり、装具の利用によりFeedbackによる姿勢のコントロールが可能となる。どのような神経メカニズムの学習を図っていくかを考えながら、装具療法を含めた治療方法の選択を行っていく必要があると思う。

本日はここまで。


続きはまた次回。。。
(興味のある方はこちらもどうぞ;脳卒中患者の自立を促すための装具療法

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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法



2015年6月7日日曜日

第50回日本理学療法学術大会

先日、東京国際フォーラムで開催された日本理学療法学術大会に参加した。

私は2日目に発表を行ったのだが、なかなか緊張しましたねぇ。
私の発表に関しては、また後日まとめを行うとして・・・・。

今回は50回の記念大会という事もあり、多くのシンポジウムが企画されていた。

シンポジウムの中で、基礎医学の重要性とともに基礎医学を臨床応用していくことの大切さについて多く語られていた。

通常医学などでは、動物実験を含めた基礎医学の情報を基に臨床試験を経て臨床に応用される。しかし、理学療法分野では基礎医学の情報はまだまだ少なく、経験則に基づいているものが多いとの事であった。

 
これからの理学療法発展のために、基礎医学研究も重要であるが、臨床に携わる理学療法士としては、基礎医学の観点から治療プログラムを立案することが大切である。
1症例を大切にし、科学的な根拠に基づいた治療を行うことが重要で、症例報告を通じて基礎医学の臨床応用を発信する必要がある。
 
 
これまで神経可塑性や姿勢コントロールのメカニズムなどをまとめてきたが、その重要性を再認識させていただいた良い機会であった。
 
 
これからも科学的知見についてのまとめを継続していき、症例発表としての発信も行っていきたいと思う。
 
 
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2015年6月1日月曜日

ボバースコンセプト(Locomotion)

今回はLocomotionについてまとめてみたいと思う。

歩行は、1歩足を前に出す時とその後歩行を継続する時とでは神経メカニズムが異なるとされており、ひとたび歩行運動が始まると中枢パターン発生器(Central pattern generator:CPG)の働きにより、特に動作を意識することなく半ば自動的に運動を継続することができる。
1歩前に出すためのメカニズムについてはこちら

CPGは上記のようなモデルで説明されており、脊髄の中に伸筋・屈筋それぞれを司る介在ニューロンが存在し、相互に抑制結合を持つことで屈筋と伸筋の交互運動を生み出すとされている。

また、介在ニューロンは反対側の屈筋とも抑制結合を持ち、これにより左右肢の立脚と遊脚をスムーズに切り替えることができリズミカルな自動歩行が可能となると考えられている。

屈筋と伸筋を切り替えるためには、股関節屈筋および足関節底屈筋への伸長刺激および荷重刺激が重要とされており、脊髄レベルでの感覚のやり取りおよび筋緊張のコントロールが重要となる。

●脊髄レベルでの筋緊張コントロール●
脊髄レベルでの筋緊張のコントロールについては、前回まとめを行ったので詳しい話は割愛するが、復習を兼ねて少しまとめてみる。感覚システムについてはこちら

筋紡錘への刺激(筋へのストレッチ刺激)に関しては、Ⅰa線維により情報伝達が行われ、ストレッチされた筋の促通および拮抗筋の抑制が行われる。また、ゴルジ腱器官への刺激はⅠb線維により情報伝達が行われ、Ⅰb介在ニューロンを介して筋緊張のコントロールが行われる。Ⅰb介在ニューロンは活動場面により働きが異なり、荷重時は促通、空間でコントロールする場面では抑制に働くとされている。

CPGを理解するためにはこれらのメカニズムに加えて反回抑制のメカニズムを理解する必要がある。反回抑制は、レンショウ細胞と呼ばれる介在ニューロンを介して行われる抑制系のメカニズムである。このレンショウ細胞はα運動ニューロンの側枝から情報を受けており、その情報を基に情報を受けたα運動ニューロン自身を抑制する。

反回抑制の伝達経路は図の通りであるが、レンショウ細胞は主動作筋の活動が高まると活性化され、主動作筋を抑制するとともにⅠa介在ニューロンにも作用し、拮抗筋への抑制(相反抑制)を抑制させる(脱抑制)。レンショウ細胞は屈筋と伸筋のスムーズな切り替えに作用していると考えられており、CPGを働かせるためにはレンショウ細胞を活性化する必要があると思われる。

 
それでは、我々が歩いている際にどのようにして主動作筋の活動を高めレンショウ細胞を働かせているのだろうか?
歩行する際、立脚期前半には身体重心は減速し、後半に加速する。この加速期に足関節底屈トルクが強く作用すると言われている。
また、底屈トルクに関する報告では、立脚期後半まで腓腹筋の筋線維は等尺性収縮に近い活動をしながら腱組織を伸長し、腱組織が弾性エネルギーを貯蓄する。そして、立脚相の最後に伸びたバネが縮むように腱を短縮させ、同時に生じる筋線維の短縮と合わせて筋腱複合体として大きなパワーを得ることで蹴り出しを行うことができるとされている。(川上泰雄:ウォーキングにおけるばねの役割)

荷重下で立脚終期に足関節が背屈されることで、筋線維がストレッチされることによるⅠa線維による促通ゴルジ腱器官への荷重および伸長刺激が加わり主動作筋となる下腿三頭筋の促通が図られる。これによりレンショウ細胞が活性化され、脱抑制が起こり抑制されていた前脛骨筋の運動ニューロンの活動が高まる。蹴り出し時に前脛骨筋が伸張(ストレッチ)されることにより、前脛骨筋の活動がが高まると考えられ、伸筋から屈筋への切り替えが行われると思われる。
そのため、CPGを働かせるためには腓腹筋の筋緊張を適切にコントロールしておくことが大切である。

以上Locomotion(CPGのメカニズム)についてのまとめを行った。CPGを働かせるためには、腓腹筋を求心位に保てるよう筋緊張を整えておくことが必要であり、ⅠaおよびⅠb線維へ適切に刺激を入れることが重要である。
ボバースコンセプトによるアプローチにおいて、裸足での介入が良く行われるが、裸足でのステップおよび歩行訓練は、足底皮膚感覚受容器への刺激に加えて、足関節の自由度を制限せず底背屈および内外反が行える環境にすることで、ⅠaおよびⅠb線維へ適切に刺激が入りやすいようにし、CPGが働きやすい環境にしていると考えられる。

歩行獲得を目指す際に必ずしも歩行訓練を積極的に行わなければならないとは思わないが、歩行という課題を通じて歩行獲得へ向けてアプローチを行う際、腓腹筋を求心位に保つことが難しく、ⅠaおよびⅠb線維へ適切に刺激を入れることが難しい患者に対して歩行訓練を行い歩行獲得を目指す場合は装具等の補装具の検討も必要と私は思う。

CPGに関する別の投稿はこちら

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2015年5月22日金曜日

ボバースコンセプト(感覚システム)

今回は感覚システムについてまとめていきたいと思う。

ボバースコンセプトにおけるファシリテーションを実践していくためには、感覚システムの理解が重要である。

●姿勢筋緊張●
姿勢筋緊張は内側運動制御系によってコントロールされている。内側運動制御系は、脳幹からの下行路が主で、脳幹からのコントロールが重要とされている。




しかし、姿勢筋緊張は脳幹からのコントロールだけでなく、筋や皮膚などの末梢の受容器とのやり取りを通じて脊髄レベルでもコントロールされている。そのため、ボバースコンセプトにおけるハンドリング(ファシリテーション)では、この脊髄レベルでコントロールするシステムを利用し、姿勢筋緊張を変化させ、パフォーマンスの向上を図っている。

●感覚受容器●
筋や皮膚などは受容器としての働きを持つ。固有感覚情報を受け取る受容器は筋紡錘ゴルジ腱器官がある。筋紡錘は筋線維に対して並列に配列されており、筋の長さや変化の速さを感知する。ゴルジ腱器官は筋線維に対して直列に配列されており、筋張力を感知する。
皮膚受容器は無毛部(手掌や足底)有毛部では受容器が異なる。無毛部は、2点識別や立体覚を感知できるようマイスナー小体メルケル盤などが多く存在する。有毛部は、皮膚が伸長されるなどの変化を感知できるようルフィニ終末毛包受容器などが多く存在する。


また、関節内にある関節受容器は主に最終可動域で反応し、位置覚や運動覚にはほとんど貢献していないと言われている。そのため、関節角度は主に皮膚感覚や固有感覚にて感知されている。

●脊髄レベルでの筋緊張コントロール●
脊髄レベルでの筋緊張コントロールは主に反射によって行われている。反射に関わる求心路は、伸張反射や相反抑制に関わるⅠa線維とⅠb介在ニューロンを介すⅠb線維がある。Ⅰa線維は主に筋紡錘からの刺激を伝える線維であり、ストレッチ刺激に反応する。筋へのストレッチ刺激は、ストレッチされた筋の筋緊張を促通すると共に、Ⅰa介在ニューロンを介して拮抗筋を抑制する。この抑制システムを相反抑制と呼ぶ。


Ⅰb線維は主にゴルジ腱器官からの刺激を伝える線維である。この刺激はⅠb介在ニューロンを介して筋へ作用する。




Ⅰb線維による反射は抑制に働くと学生時代学んだが、(卒業したのがずいぶん前なので今は違うかもしれないが・・・)Ⅰb介在ニューロンは中枢神経系によりコントロールされており、活動場面によって抑制と促通の切り替えが行われる。例えば、ジャンプの着地の場面を想像してもらいたい。ジャンプの着地の際、筋および腱器官にはかなり強い刺激が加わる。腱への刺激が加わり、筋緊張が抑制にコントロールされると体を支えることができず、転倒してしまうことが想像できると思う。これは、起立や歩行の立脚時も同様である。つまり、Ⅰb介在ニューロンへの刺激は、荷重時では促通に働くという事である。逆に歩行の遊脚時などの空間でコントロールする場合は抑制に働く。


また、Ⅰb介在ニューロンへの入力は、ゴルジ腱器官だけでなく皮膚受容器関節受容器からの入力も受ける。そのため、皮膚や関節受容器から空間的な加重を加えることでⅠb介在ニューロンは発火しやすくなる。
※空間的加重:1つのニューロンに別々に収束する刺激を同時に入力することでシナプス電位が大きくなる現象。



さらに、ゴルジ腱器官の閾値は高く他動的な介入では発火しにくいとも言われており、他動的な介入でⅠb介在ニューロンを発火させるためには、空間的な加重が必要と思われる。

簡単にまとめると・・・
・筋緊張促通⇒筋へのストレッチ刺激荷重下にてゴルジ腱器官へ刺激をする
・筋緊張抑制⇒拮抗筋を促通する(相反抑制)、空間位で皮膚受容器・関節受容器・ゴルジ腱器官を刺激する。


以上、ファシリテーションに必要な知識のまとめを行った。

次回は、もう少し臨床に則した形でのまとめを行いたいと思う。

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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法






2015年5月14日木曜日

ボバースコンセプト(予測的姿勢制御と身体図式)

今回は予測的姿勢制御についてまとめたいと思う。

●予測的姿勢制御●
予測的姿勢制御は、予測される重心の変化に対して事前に対応する姿勢制御機構である。予測をするためには、事前にどのような動作が起こるか知っておく必要があり、運動のプログラミングが大切となる。

●運動プログラムの生成●
運動プログラムは、補足運動野および運動前野にて生成されるが、これらは後頭頂皮質の身体図式の情報を基に生成される。そのため、効率的な運動をプログラムするためには、適切な身体図式の生成が必要となる。


●身体図式●
身体図式は身体表象を示す用語の1つで、似た用語として身体イメージがある。この2つの用語の境界は必ずしも明確ではないが、身体図式は主に生理学・神経科学領域で、身体イメージは心理学・精神医学領域で用いられる傾向にある。また、身体イメージは身体表象を意識化したもの身体図式は非意識下で潜在的なものと表現されることも多い。
身体図式に関わる領域は上頭頂小葉と下頭頂小葉があり、上頭頂小葉は体性感覚(内的情報)の統合を図り、下頭頂小葉は体性感覚(内的情報)と視覚(外的情報)の統合を図るとされている。




●予測的姿勢制御が働くために●
予測的姿勢制御が働くためには、適切な身体図式の形成が必要である。しかし、私たちの脳は、使用されない領域は他の領域に置き換わったり、分離した感覚情報が入力されないと同じ感覚情報として捉えてしまう。また、大脳半球には相互に抑制するメカニズムが存在し、脳卒中後に非麻痺側ばかりを使ってしまうと損傷された脳に対する抑制が強くなり、情報処理が行いにくくなる。そのため、左右均等に適切な感覚情報を入力し、自己身体のことをきちんと知覚できるように関わる必要がある。
半球間抑制のメカニズムについてはこちら


 
それでは、左右均等に感覚情報を入力するためにはどうしたらよいだろうか?
私たちの脳の運動野、感覚野ともに手はかなり広い領域を占めている。久保田競先生の「手と脳」のなかで、手は外部の脳であると表現されており、手を動かすことで運動野の血流は約30%、感覚野の血流は約17%増加すると言われている。そのため、脳を活性化させ左右の情報を均等に処理するためには手(特に手掌)からの情報が重要である。
 
また、多関節運動学入門の中に書かれているライトタッチの文献では、示指で固定物に1N以下の軽い力で触れるだけで身体の動揺は50~70%低下すると言われており、姿勢コントロールと手掌の関わりの重要さについても示されている。
さらに、立位においては環境との唯一の接点となる足底の情報も重要で、冷却によって足底皮膚受容器の感覚情報を入りにくくした実験では、効率的な姿勢制御に必要な要素の1つである足関節戦略が困難となり、股関節戦略へと移行することを示している。
つまり、予測的姿勢制御が働くためには、適切な身体図式の形成が必要で、適切な身体図式を形成するためには手掌・足底からの情報を適切に入力する必要がある。手と脳の関わりの部分で述べたが、脳の血流は運動を行っているときの方が増加する。そのため、手掌・足底からの感覚情報は、皮膚からの感覚情報だけでなく内在筋の活性化を図り、固有感覚情報を取り込めるようにアプローチすることも重要となる。
手掌・足底への関わりが効率的な予測的姿勢コントロールへ導くためには必要と思われる。
 
本日はここまで。
参考にした書籍はこちら



脳卒中片麻痺患者に対する理学療法

2015年5月7日木曜日

ボバースコンセプト再開

今回からボバースコンセプトについてのまとめを再開。

前に書いたブログを読み返していると抜けているところがたくさん・・・。

まだまだですねぇ。。。

自分自身の復習もかねて姿勢コントロールについて再度まとめたいと思う。

●姿勢安定と姿勢オリエンテーション●
姿勢制御は安定性とオリエンテーションの2つの要素からなる。安定性は支持面(BOS)に対して質量中心(COM)を制御する能力でバランスともいわれる。姿勢オリエンテーションは、環境・課題に対して適切なアライメントを保持する能力のことで、これにより環境から適切に感覚情報を受け取ることができ、正しい方向へ向かって姿勢や運動をコントロールすることできる
それぞれの運動課題はオリエンテーションと安定性の要素をそれぞれ持っているが、その内容は運動課題と環境により変化する。例えば、椅子に座るという課題においては、座面に対して骨盤を水平に保つ、また、骨盤に対して体幹を垂直に保つというオリエンテーションと支持面となる殿部の中に質量中心をコントロールする安定の要素がある。また、下記の写真(少し懐かしい写真ですが、カープファンの僕は大好きな写真です)のようにホームランボールをキャッチするという課題においては、ボールを見るために頸部や体幹を左回旋位に保つ、ボールが取れる位置に上肢を保持しておく・・・・などオリエンテーションの要素はかなり多い課題である。しかし、ボールを捕るまでの間フェンスに乗せている足で何とか安定を保っておくというように安定の要素は少ない課題である。

このように、課題によってオリエンテーションと安定の要素は変化するが、効率的に動くためには、姿勢の安定や動作の前に正しい姿勢オリエンテーションが得られている必要がある。これがうまく行えていない典型はPusher現象を示す患者で接地している床面や座面に対して身体を垂直に保つことができないので麻痺側へ押すような反応を示してしまう。

これを神経メカニズムで考えてみる。
姿勢コントロールのメカニズムについてはこちら
姿勢コントロールに関わる神経システムは、Feedforward系の皮質橋網様体脊髄路、皮質延髄網様体脊髄路とFeedback系の前庭脊髄路などがある。動作に先行して姿勢をコントロールする神経システムは皮質橋網様体脊髄であり、このシステムが姿勢オリエンテーションを担っている。そのため、効率的に動くためには動作に先行して皮質橋網様体脊髄システムがうまく働く必要があると思われる。




 
本日はここまで。。。
 
 
続きはまた次回。
 
 
書籍の紹介
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2015年5月1日金曜日

新人研修(課題設定の仕方)

今回は治療課題の設定の仕方についてまとめたいと思う。

パフォーマンスの向上には運動学習は不可欠である。
運動学習において課題の難易度の調整は重要であり、60~70%くらいの少し難しい程度に課題の難易度を調整する必要があるため、課題設定の設定は重要である。

●課題設定の仕方●
私たちが行う運動は、誰が(個体)どこで(環境)何を(運動課題)するかによって決定される。例えば、同じ個体でも平地の上を歩くのと氷や平均台の上を歩くのでは歩き方は変わってくる。また、けがという個人の状態が変化しただけでも動作は変わってくる。そのため、治療課題を設定する時にはこの3つの関係を考えることが重要である。
この課題設定の仕方は大きく分けて2通りある。1つ目は、歩行獲得を目指す時に歩行を行うことによって獲得を目指す方法で、環境因子を整えることで難易度の調整を行う方法である。これは学習の課題特異的効果を期待した調整方法である。この方法は、同じ動作を反復して行うので獲得にかかる期間は少なくて済むが、他の動作への汎化が期待できないためいろんなパターンを持った動きを獲得するのは難しいという特徴がある。

もう一つは様々な運動課題の中で歩行の構成要素にかけている部分を学習することで歩行の獲得を目指す方法で、運動課題を変更することで難易度の調整を行う方法である。これは学習の転移効果を期待した方法である。この方法は、歩行に関連した動作の獲得ができるため様々な動作に汎化することができる。そのため、様々な動作を獲得しなければならないので時間はかかるが、いろんなバリエーションを持った動きが可能となる。



例えば、歩行という全課題の構成要素が体幹回旋・体幹の安定・膝・股関節の伸展活動であるとすると(こんなに少ないことはありえないが・・・)寝返りや座位バランス訓練、起立訓練などでそれぞれの構成要素を獲得していき歩行獲得に導いていく。

運動課題による難易度の調整でも環境因子を整えることで実施できる課題は変わってくる。そのため、どちらの方法にしても環境因子を整えるということは重要である。

以上、課題設定についてのまとめを行った。治療を行っていく際は、その人の年齢や社会的背景、病期などを加味しながらどちらの課題設定を行うとより効率的に治療が展開できるかを考えながら実施する必要がある。新入職員にも自分の担当する患者にあったテーラーメイドな治療展開ができるようになってほしいと思う。

これで僕が担当した新人研修は終わり。
次回からはまたボバースなどの勉強してきたことについてのまとめを行いたいと思う。

その他の新人研修はこちら
 
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