2017年9月24日日曜日

症例報告の重要性について考えてみた

 「症例報告」について話をする機会を頂いた。「症例報告」についての話を行うに当たり、自分なりに症例報告の重要性について考えてみた。
 今回は、症例報告の重要性についてまとめていきたいと思う。


●エビデンスとは?●
 Evidenceは、根拠・証拠を意味する英単語であり、医療や理学療法場面で利用されれば、医療・理学療法の根拠・証拠の意味を指す。エビデンスにはその信頼の度合いによってレベル1~レベル6までランク付けがされている。


 症例報告はエビデンスレベル5であり、治療の根拠としては信頼性の低いものである。症例報告を行っても治療の根拠としては信頼性の低いものであるため、行っても意味がないと思われるかもしれないが、それは違う。
 エビデンスには、3つの役割がある。1つ目は、治療の根拠となるデータを作り出すこと。2つ目は、作り出されたデータを臨床の場で使うこと。3つ目は、作り出したデータや臨床の場で使った経験を多くの人に伝えることである。そのため、私のように臨床で働いている療法士が、医療のエビデンスに貢献できることといえば、作り出されたデータを臨床の場で使うこと、つまり、EBMを実践することであり、そして、その経験を学会や論文で多くの人に伝えることであると思う。


 信頼性の高いエビデンスは数多く出されているが、日本人を対象としたものはあまり多くないことが指摘されている。また、信頼性の高いエビデンスがあったとしても、方法を標準化するために対象者を限定していることも少なくない。そのため、自分が対象とする患者にそのエビデンスが有効かどうか吟味する必要がある。症例報告を行う意義は、エビデンスを利用する際の「工夫やコツ」を伝えることであると思う。




●EBMについて●
 エビデンスとEBMは混同されがちであるが意味は異なる。エビデンスは、先ほど示した通り医療の根拠・証拠を意味し、臨床判断においてその判断に根拠を与えるもののことである。一方、EBMは、個々の診療にエビデンスを応用する方法論である。つまり、エビデンスは一般的な情報で、EBMは個別の医療実践であることは区別しなければならない。
 EBMは、個々の診療にエビデンスを応用する方法論であるため、「脳卒中の患者には、この治療方法でなければダメ!!」と治療を統一・限定するものではない。自分の目の前にいる患者それぞれに、よりよい治療方法はなんであるかを導き出すことが大切である。そのため、療法士が治療方法を決定する、もしくは、患者自身が受ける治療方法を決定するための判断材料としてエビデンスは利用されるものである。誤っても、EBMとはエビデンスに基づいた診療ガイドラインを作成し、診療の統一を図るという認識を持ってはいけない。



 また、EBMは、臨床疫学を個々の診療に応用するための方法論とも言われている。疫学とは、集団を対象とした研究で、Aという集団とBという集団を比較すると、どちらが有意な改善を示しているか?という事を示す研究方法であり、結果に関しては、統計学的に有意かどうかが重要となる。そのため、エビデンスレベルでは、多施設間のランダム化比較試験などが信頼性の高いものとなっており、症例報告などの個人を対象としたものや統計学的処理を行っていないものは信頼性の低いものとなっている。
 そのため、EBMで用いるエビデンスは、原則として疫学的方法によって得られた経験的・実験的な情報であることが重要であるとされている。しかしながら、注意すべきことは、統計的に有意差があっても目の前の患者に対して有益かどうかは吟味しなければならないことである。例えば、「ある治療を行うと5%有意に早く退院できる」といったエビデンスがあるとする。「5%早く・・・」と聞くと有益に思うが、平均在院日数が60日の場合、5%早く退院できるという事は、通常よりも3日早く退院できるというデータということになる。歩行速度でも同様で、「5%有意に歩行速度が速くなる」というエビデンスを適応しようとする患者の10m歩行が10秒であれば、9.5秒になるというデータになる。つまり、利用しようとするエビデンスが、対象の患者にとって有益かどうかきちんと吟味することが重要となる。しかしながら、EBMで用いるエビデンスは、疫学的方法によって得られたものとされているため、神経科学や運動力学などの基礎科学的な実験で得られたデータは信頼性の高い根拠とはならないことも認識しておかなければならない。




 EBMを実践するために必要な項目をまとめると、下記に示す図のように5つの項目が重要となる。



 まず、ある患者に、ある介入を行うと、別の介入と比較してどうなるか?といった臨床的な疑問を挙げることから開始する。
 次にその疑問を解決するために必要なエビデンスの検索を行う。注意しべきは、ガイドラインなどはガイドラインを作る組織委員会に所属する人の批判的吟味、つまり、主観も入っているいう事である。多くは経験を積まれた方が作成しているため問題ないと思われるが、解釈が妥当かどうは再度吟味する必要があると思われる。経験の浅い療法士であれば、ガイドラインを利用した方が良い結果を導けると思うが、経験を積んだ療法士であれば、一次情報源となる原著論文などを自ら吟味し、活用することも重要と思う。
 利用すべきエビデンスが見つかったら、取得したエビデンスが妥当なものかどうか吟味することが必要で、目の前の患者に役立つかどうか?目の前の患者の価値観や目的に合うかどうか?を吟味し、患者と一緒に決断する必要がある。
 最後にエビデンスを用いた結果がどうであったか?次に活用する際に工夫したほうが良い点はあるか?などの振り返りを行う。このようにEBMは成り立っている。

●まとめ●
 症例報告はEBMの実践における「工夫やコツ」を伝えることができるものである。患者それぞれの臨床的な疑問1つ1つが症例報告の重要なテーマになると考える。また、エビデンスが少ないものに関しては、症例報告が新たなエビデンスを作り出すための問題提起となることもあるため、臨床家として、医療に貢献するために症例報告を行うことは重要と考える。



本日はここまで。

続きはまた次回。。。

書籍の紹介
脳卒中片麻痺患者に対する理学療法


2017年9月8日金曜日

雑誌「理学療法学」に掲載予定(長期外来リハビリテーションにより就労に至った被殻出血の一例)

 雑誌「理学療法学」に投稿していた症例報告が受理され、Jstageで早期公開されることとなった。前回の論文掲載時も同様であったが、論文の形になるとそれらしくなり、自分の書いたものが載っているとうれしいものですね。


 今回投稿したものは「症例報告」であるため、エビデンスレベルでいえば価値の低いものであるが、臨床の療法士として、「症例報告」を行うことは重要と考えている。
 集団を対象とした研究を行い新しいエビデンスを作り出すことは大変重要なことと思う。しかしながら、そのエビデンスを利用し、いわゆるEBMを実践すること、また、それを報告することは臨床の療法士としては重要な役割であると思う。

 臨床の療法士もEBMに基づいた理学療法を実践し、多くの場で活躍できるようになれればいいなぁと思います。

興味があれば論文も読んでみて下さい。
長期外来リハビリテーションにより就労に至った被殻出血の一例



本日はここまで。

続きはまた次回。。。

書籍の紹介
脳卒中片麻痺患者に対する理学療法