2015年5月22日金曜日

ボバースコンセプト(感覚システム)

今回は感覚システムについてまとめていきたいと思う。

ボバースコンセプトにおけるファシリテーションを実践していくためには、感覚システムの理解が重要である。

●姿勢筋緊張●
姿勢筋緊張は内側運動制御系によってコントロールされている。内側運動制御系は、脳幹からの下行路が主で、脳幹からのコントロールが重要とされている。




しかし、姿勢筋緊張は脳幹からのコントロールだけでなく、筋や皮膚などの末梢の受容器とのやり取りを通じて脊髄レベルでもコントロールされている。そのため、ボバースコンセプトにおけるハンドリング(ファシリテーション)では、この脊髄レベルでコントロールするシステムを利用し、姿勢筋緊張を変化させ、パフォーマンスの向上を図っている。

●感覚受容器●
筋や皮膚などは受容器としての働きを持つ。固有感覚情報を受け取る受容器は筋紡錘ゴルジ腱器官がある。筋紡錘は筋線維に対して並列に配列されており、筋の長さや変化の速さを感知する。ゴルジ腱器官は筋線維に対して直列に配列されており、筋張力を感知する。
皮膚受容器は無毛部(手掌や足底)有毛部では受容器が異なる。無毛部は、2点識別や立体覚を感知できるようマイスナー小体メルケル盤などが多く存在する。有毛部は、皮膚が伸長されるなどの変化を感知できるようルフィニ終末毛包受容器などが多く存在する。


また、関節内にある関節受容器は主に最終可動域で反応し、位置覚や運動覚にはほとんど貢献していないと言われている。そのため、関節角度は主に皮膚感覚や固有感覚にて感知されている。

●脊髄レベルでの筋緊張コントロール●
脊髄レベルでの筋緊張コントロールは主に反射によって行われている。反射に関わる求心路は、伸張反射や相反抑制に関わるⅠa線維とⅠb介在ニューロンを介すⅠb線維がある。Ⅰa線維は主に筋紡錘からの刺激を伝える線維であり、ストレッチ刺激に反応する。筋へのストレッチ刺激は、ストレッチされた筋の筋緊張を促通すると共に、Ⅰa介在ニューロンを介して拮抗筋を抑制する。この抑制システムを相反抑制と呼ぶ。


Ⅰb線維は主にゴルジ腱器官からの刺激を伝える線維である。この刺激はⅠb介在ニューロンを介して筋へ作用する。




Ⅰb線維による反射は抑制に働くと学生時代学んだが、(卒業したのがずいぶん前なので今は違うかもしれないが・・・)Ⅰb介在ニューロンは中枢神経系によりコントロールされており、活動場面によって抑制と促通の切り替えが行われる。例えば、ジャンプの着地の場面を想像してもらいたい。ジャンプの着地の際、筋および腱器官にはかなり強い刺激が加わる。腱への刺激が加わり、筋緊張が抑制にコントロールされると体を支えることができず、転倒してしまうことが想像できると思う。これは、起立や歩行の立脚時も同様である。つまり、Ⅰb介在ニューロンへの刺激は、荷重時では促通に働くという事である。逆に歩行の遊脚時などの空間でコントロールする場合は抑制に働く。


また、Ⅰb介在ニューロンへの入力は、ゴルジ腱器官だけでなく皮膚受容器関節受容器からの入力も受ける。そのため、皮膚や関節受容器から空間的な加重を加えることでⅠb介在ニューロンは発火しやすくなる。
※空間的加重:1つのニューロンに別々に収束する刺激を同時に入力することでシナプス電位が大きくなる現象。



さらに、ゴルジ腱器官の閾値は高く他動的な介入では発火しにくいとも言われており、他動的な介入でⅠb介在ニューロンを発火させるためには、空間的な加重が必要と思われる。

簡単にまとめると・・・
・筋緊張促通⇒筋へのストレッチ刺激荷重下にてゴルジ腱器官へ刺激をする
・筋緊張抑制⇒拮抗筋を促通する(相反抑制)、空間位で皮膚受容器・関節受容器・ゴルジ腱器官を刺激する。


以上、ファシリテーションに必要な知識のまとめを行った。

次回は、もう少し臨床に則した形でのまとめを行いたいと思う。

書籍の紹介
脳卒中片麻痺患者に対する理学療法






2015年5月14日木曜日

ボバースコンセプト(予測的姿勢制御と身体図式)

今回は予測的姿勢制御についてまとめたいと思う。

●予測的姿勢制御●
予測的姿勢制御は、予測される重心の変化に対して事前に対応する姿勢制御機構である。予測をするためには、事前にどのような動作が起こるか知っておく必要があり、運動のプログラミングが大切となる。

●運動プログラムの生成●
運動プログラムは、補足運動野および運動前野にて生成されるが、これらは後頭頂皮質の身体図式の情報を基に生成される。そのため、効率的な運動をプログラムするためには、適切な身体図式の生成が必要となる。


●身体図式●
身体図式は身体表象を示す用語の1つで、似た用語として身体イメージがある。この2つの用語の境界は必ずしも明確ではないが、身体図式は主に生理学・神経科学領域で、身体イメージは心理学・精神医学領域で用いられる傾向にある。また、身体イメージは身体表象を意識化したもの身体図式は非意識下で潜在的なものと表現されることも多い。
身体図式に関わる領域は上頭頂小葉と下頭頂小葉があり、上頭頂小葉は体性感覚(内的情報)の統合を図り、下頭頂小葉は体性感覚(内的情報)と視覚(外的情報)の統合を図るとされている。




●予測的姿勢制御が働くために●
予測的姿勢制御が働くためには、適切な身体図式の形成が必要である。しかし、私たちの脳は、使用されない領域は他の領域に置き換わったり、分離した感覚情報が入力されないと同じ感覚情報として捉えてしまう。また、大脳半球には相互に抑制するメカニズムが存在し、脳卒中後に非麻痺側ばかりを使ってしまうと損傷された脳に対する抑制が強くなり、情報処理が行いにくくなる。そのため、左右均等に適切な感覚情報を入力し、自己身体のことをきちんと知覚できるように関わる必要がある。
半球間抑制のメカニズムについてはこちら


 
それでは、左右均等に感覚情報を入力するためにはどうしたらよいだろうか?
私たちの脳の運動野、感覚野ともに手はかなり広い領域を占めている。久保田競先生の「手と脳」のなかで、手は外部の脳であると表現されており、手を動かすことで運動野の血流は約30%、感覚野の血流は約17%増加すると言われている。そのため、脳を活性化させ左右の情報を均等に処理するためには手(特に手掌)からの情報が重要である。
 
また、多関節運動学入門の中に書かれているライトタッチの文献では、示指で固定物に1N以下の軽い力で触れるだけで身体の動揺は50~70%低下すると言われており、姿勢コントロールと手掌の関わりの重要さについても示されている。
さらに、立位においては環境との唯一の接点となる足底の情報も重要で、冷却によって足底皮膚受容器の感覚情報を入りにくくした実験では、効率的な姿勢制御に必要な要素の1つである足関節戦略が困難となり、股関節戦略へと移行することを示している。
つまり、予測的姿勢制御が働くためには、適切な身体図式の形成が必要で、適切な身体図式を形成するためには手掌・足底からの情報を適切に入力する必要がある。手と脳の関わりの部分で述べたが、脳の血流は運動を行っているときの方が増加する。そのため、手掌・足底からの感覚情報は、皮膚からの感覚情報だけでなく内在筋の活性化を図り、固有感覚情報を取り込めるようにアプローチすることも重要となる。
手掌・足底への関わりが効率的な予測的姿勢コントロールへ導くためには必要と思われる。
 
本日はここまで。
参考にした書籍はこちら



脳卒中片麻痺患者に対する理学療法

2015年5月7日木曜日

ボバースコンセプト再開

今回からボバースコンセプトについてのまとめを再開。

前に書いたブログを読み返していると抜けているところがたくさん・・・。

まだまだですねぇ。。。

自分自身の復習もかねて姿勢コントロールについて再度まとめたいと思う。

●姿勢安定と姿勢オリエンテーション●
姿勢制御は安定性とオリエンテーションの2つの要素からなる。安定性は支持面(BOS)に対して質量中心(COM)を制御する能力でバランスともいわれる。姿勢オリエンテーションは、環境・課題に対して適切なアライメントを保持する能力のことで、これにより環境から適切に感覚情報を受け取ることができ、正しい方向へ向かって姿勢や運動をコントロールすることできる
それぞれの運動課題はオリエンテーションと安定性の要素をそれぞれ持っているが、その内容は運動課題と環境により変化する。例えば、椅子に座るという課題においては、座面に対して骨盤を水平に保つ、また、骨盤に対して体幹を垂直に保つというオリエンテーションと支持面となる殿部の中に質量中心をコントロールする安定の要素がある。また、下記の写真(少し懐かしい写真ですが、カープファンの僕は大好きな写真です)のようにホームランボールをキャッチするという課題においては、ボールを見るために頸部や体幹を左回旋位に保つ、ボールが取れる位置に上肢を保持しておく・・・・などオリエンテーションの要素はかなり多い課題である。しかし、ボールを捕るまでの間フェンスに乗せている足で何とか安定を保っておくというように安定の要素は少ない課題である。

このように、課題によってオリエンテーションと安定の要素は変化するが、効率的に動くためには、姿勢の安定や動作の前に正しい姿勢オリエンテーションが得られている必要がある。これがうまく行えていない典型はPusher現象を示す患者で接地している床面や座面に対して身体を垂直に保つことができないので麻痺側へ押すような反応を示してしまう。

これを神経メカニズムで考えてみる。
姿勢コントロールのメカニズムについてはこちら
姿勢コントロールに関わる神経システムは、Feedforward系の皮質橋網様体脊髄路、皮質延髄網様体脊髄路とFeedback系の前庭脊髄路などがある。動作に先行して姿勢をコントロールする神経システムは皮質橋網様体脊髄であり、このシステムが姿勢オリエンテーションを担っている。そのため、効率的に動くためには動作に先行して皮質橋網様体脊髄システムがうまく働く必要があると思われる。




 
本日はここまで。。。
 
 
続きはまた次回。
 
 
書籍の紹介
脳卒中片麻痺患者に対する理学療法


2015年5月1日金曜日

新人研修(課題設定の仕方)

今回は治療課題の設定の仕方についてまとめたいと思う。

パフォーマンスの向上には運動学習は不可欠である。
運動学習において課題の難易度の調整は重要であり、60~70%くらいの少し難しい程度に課題の難易度を調整する必要があるため、課題設定の設定は重要である。

●課題設定の仕方●
私たちが行う運動は、誰が(個体)どこで(環境)何を(運動課題)するかによって決定される。例えば、同じ個体でも平地の上を歩くのと氷や平均台の上を歩くのでは歩き方は変わってくる。また、けがという個人の状態が変化しただけでも動作は変わってくる。そのため、治療課題を設定する時にはこの3つの関係を考えることが重要である。
この課題設定の仕方は大きく分けて2通りある。1つ目は、歩行獲得を目指す時に歩行を行うことによって獲得を目指す方法で、環境因子を整えることで難易度の調整を行う方法である。これは学習の課題特異的効果を期待した調整方法である。この方法は、同じ動作を反復して行うので獲得にかかる期間は少なくて済むが、他の動作への汎化が期待できないためいろんなパターンを持った動きを獲得するのは難しいという特徴がある。

もう一つは様々な運動課題の中で歩行の構成要素にかけている部分を学習することで歩行の獲得を目指す方法で、運動課題を変更することで難易度の調整を行う方法である。これは学習の転移効果を期待した方法である。この方法は、歩行に関連した動作の獲得ができるため様々な動作に汎化することができる。そのため、様々な動作を獲得しなければならないので時間はかかるが、いろんなバリエーションを持った動きが可能となる。



例えば、歩行という全課題の構成要素が体幹回旋・体幹の安定・膝・股関節の伸展活動であるとすると(こんなに少ないことはありえないが・・・)寝返りや座位バランス訓練、起立訓練などでそれぞれの構成要素を獲得していき歩行獲得に導いていく。

運動課題による難易度の調整でも環境因子を整えることで実施できる課題は変わってくる。そのため、どちらの方法にしても環境因子を整えるということは重要である。

以上、課題設定についてのまとめを行った。治療を行っていく際は、その人の年齢や社会的背景、病期などを加味しながらどちらの課題設定を行うとより効率的に治療が展開できるかを考えながら実施する必要がある。新入職員にも自分の担当する患者にあったテーラーメイドな治療展開ができるようになってほしいと思う。

これで僕が担当した新人研修は終わり。
次回からはまたボバースなどの勉強してきたことについてのまとめを行いたいと思う。

その他の新人研修はこちら
 
書籍の紹介
脳卒中片麻痺患者に対する理学療法