歩行は、1歩足を前に出す時とその後歩行を継続する時とでは神経メカニズムが異なるとされており、ひとたび歩行運動が始まると中枢パターン発生器(Central pattern generator:CPG)の働きにより、特に動作を意識することなく半ば自動的に運動を継続することができる。
1歩前に出すためのメカニズムについてはこちら
CPGは上記のようなモデルで説明されており、脊髄の中に伸筋・屈筋それぞれを司る介在ニューロンが存在し、相互に抑制結合を持つことで屈筋と伸筋の交互運動を生み出すとされている。
また、介在ニューロンは反対側の屈筋とも抑制結合を持ち、これにより左右肢の立脚と遊脚をスムーズに切り替えることができリズミカルな自動歩行が可能となると考えられている。
屈筋と伸筋を切り替えるためには、股関節屈筋および足関節底屈筋への伸長刺激および荷重刺激が重要とされており、脊髄レベルでの感覚のやり取りおよび筋緊張のコントロールが重要となる。
●脊髄レベルでの筋緊張コントロール●
脊髄レベルでの筋緊張のコントロールについては、前回まとめを行ったので詳しい話は割愛するが、復習を兼ねて少しまとめてみる。感覚システムについてはこちら
筋紡錘への刺激(筋へのストレッチ刺激)に関しては、Ⅰa線維により情報伝達が行われ、ストレッチされた筋の促通および拮抗筋の抑制が行われる。また、ゴルジ腱器官への刺激はⅠb線維により情報伝達が行われ、Ⅰb介在ニューロンを介して筋緊張のコントロールが行われる。Ⅰb介在ニューロンは活動場面により働きが異なり、荷重時は促通、空間でコントロールする場面では抑制に働くとされている。
CPGを理解するためにはこれらのメカニズムに加えて反回抑制のメカニズムを理解する必要がある。反回抑制は、レンショウ細胞と呼ばれる介在ニューロンを介して行われる抑制系のメカニズムである。このレンショウ細胞はα運動ニューロンの側枝から情報を受けており、その情報を基に情報を受けたα運動ニューロン自身を抑制する。
反回抑制の伝達経路は図の通りであるが、レンショウ細胞は主動作筋の活動が高まると活性化され、主動作筋を抑制するとともにⅠa介在ニューロンにも作用し、拮抗筋への抑制(相反抑制)を抑制させる(脱抑制)。レンショウ細胞は屈筋と伸筋のスムーズな切り替えに作用していると考えられており、CPGを働かせるためにはレンショウ細胞を活性化する必要があると思われる。
それでは、我々が歩いている際にどのようにして主動作筋の活動を高めレンショウ細胞を働かせているのだろうか?
歩行する際、立脚期前半には身体重心は減速し、後半に加速する。この加速期に足関節底屈トルクが強く作用すると言われている。また、底屈トルクに関する報告では、立脚期後半まで腓腹筋の筋線維は等尺性収縮に近い活動をしながら腱組織を伸長し、腱組織が弾性エネルギーを貯蓄する。そして、立脚相の最後に伸びたバネが縮むように腱を短縮させ、同時に生じる筋線維の短縮と合わせて筋腱複合体として大きなパワーを得ることで蹴り出しを行うことができるとされている。(川上泰雄:ウォーキングにおけるばねの役割)
荷重下で立脚終期に足関節が背屈されることで、筋線維がストレッチされることによるⅠa線維による促通とゴルジ腱器官への荷重および伸長刺激が加わり主動作筋となる下腿三頭筋の促通が図られる。これによりレンショウ細胞が活性化され、脱抑制が起こり抑制されていた前脛骨筋の運動ニューロンの活動が高まる。蹴り出し時に前脛骨筋が伸張(ストレッチ)されることにより、前脛骨筋の活動がが高まると考えられ、伸筋から屈筋への切り替えが行われると思われる。
そのため、CPGを働かせるためには腓腹筋の筋緊張を適切にコントロールしておくことが大切である。
以上Locomotion(CPGのメカニズム)についてのまとめを行った。CPGを働かせるためには、腓腹筋を求心位に保てるよう筋緊張を整えておくことが必要であり、ⅠaおよびⅠb線維へ適切に刺激を入れることが重要である。
ボバースコンセプトによるアプローチにおいて、裸足での介入が良く行われるが、裸足でのステップおよび歩行訓練は、足底皮膚感覚受容器への刺激に加えて、足関節の自由度を制限せず底背屈および内外反が行える環境にすることで、ⅠaおよびⅠb線維へ適切に刺激が入りやすいようにし、CPGが働きやすい環境にしていると考えられる。
歩行獲得を目指す際に必ずしも歩行訓練を積極的に行わなければならないとは思わないが、歩行という課題を通じて歩行獲得へ向けてアプローチを行う際、腓腹筋を求心位に保つことが難しく、ⅠaおよびⅠb線維へ適切に刺激を入れることが難しい患者に対して歩行訓練を行い歩行獲得を目指す場合は装具等の補装具の検討も必要と私は思う。
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書籍の紹介
脳卒中片麻痺患者に対する理学療法
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