2016年5月30日月曜日

第51回日本理学療法学術大会

今年も日本理学療法学術大会に参加した。
今回は札幌で行われたが、羽田空港の火事で講師の先生や発表者が来れず、セッションが中止されるものがあったり(参加できなくなった方もおられると思う)、最終日はJRのトラブルで空港行の電車のダイヤが乱れたりと交通機関のトラブルが続いた学会であった。

今回の学会で一番印象に残ったものは、再生医療に関するものであった。亜急性期の脳卒中患者や脊髄損傷患者に対するものであったが、外科的な手術ではなく、本人の脊髄幹細胞を培養し、静注するだけで運動麻痺や失語症といった機能障害の改善が認められていた。しかも、1回の静注で6か月から1年程度、中枢神経系の回復が起こるようで、ほぼ完全麻痺であった頸髄損傷者が走れるぐらいまで改善し、趣味のピアノが弾けるまでになっていたことに驚いた。脳梗塞患者も同様で、梗塞巣が消失し、上肢完全麻痺の状態であっても実用手レベルまで改善を認めていた。この治療法は、数年後には実用化される予定らしく、近い未来は麻痺による機能障害は、認められなくなってくるのかもしれない。
ただ、中枢神経系の改善が認められるといってもリハが必要なくなるわけではなく、重要であることには変わりはないとのことであった(リハ介入者と非介入者では機能に差が出たとの報告あり)。今後は、利き手交換に代表される代償動作の獲得を目指すのではなく、機能改善を追及していくリハが求められると思った。

私はというと、今回はポスター発表を行った。発表したポスターを下記に示しておくので、興味があればご覧ください。発表した内容を文章化できれば・・・と思う。


 
 
 
本日はここまで。
 
  
続きはまた次回。。。
 
書籍の紹介
脳卒中片麻痺患者に対する理学療法
 
 


2016年5月18日水曜日

新人研修(画像から見る運動障害~内側運動制御系~)

前回に引き続き、新人研修で行ったものについてまとめていきたいと思う。

今回は、内側運動制御系についてまとめていく。

●網様体脊髄路●
 内側運動制御系は、網様体脊髄路や前庭脊髄路、視蓋脊髄路など起始核が脳幹に存在する脳幹-脊髄下降路と、大脳皮質に起始する前皮質脊髄路がある。今回は、網様体脊髄路についてまとめていく。網様体脊髄路は、皮質や基底核、視床、小脳などさまざまな場所から入力を受けている(下記図は脳の地図より引用)。


 網様体脊髄路のうち、予測的な姿勢コントロールに関わるものは、6野(補足運動野と運動前野)から出る、皮質網様体路を介して駆動される。皮質-網様体-脊髄路は、皮質橋網様体脊髄路(内側網様体脊髄路)と皮質延髄網様体脊髄路(外側網様体脊髄路)に分けられる。皮質橋網様体脊髄路は、主に姿勢筋緊張の促通を、皮質延髄網様体脊髄路は、主に姿勢筋緊張の抑制を行っていると言われている。


 また、皮質橋網様体脊髄は、主に同側の体幹・骨盤・四肢近位部の姿勢筋緊張のコントロールを行い、運動開始前におこる姿勢コントロールに関与しているとされている。皮質延髄網様体脊髄は、主に反対側の四肢近位部(~遠位部)の姿勢筋緊張のコントロールを行い、運動に随伴して起こる姿勢コントロールに関与しているとされている。詳しくはこちら

●皮質網様体路●
 網様体脊髄路を駆動する皮質網様体路の経路を下記に示す(脳の地図帳より引用)。皮質網様体路は主に6野から起こり、内包の膝を通り、大脳脚を下降する。


●脳画像●
 MRI画像上の皮質-網様体-脊髄路を下記に示す。図に示した領域に病変があると姿勢筋緊張のコントロール(特に予測的な姿勢コントロール)の障害が出現する。


以上、脳画像から見る皮質網様体脊髄路の障害についてのまとめを行った。



本日はここまで。

続きはまた次回。。。

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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法

2016年5月14日土曜日

新人研修(画像から見る運動障害~外側運動制御系~)

今年度も新人研修を行うこととなった。

今年度は前年度のものに加えて、脳画像に関する分野を担当することとなったので、その内容についてまとめていきたいと思う。


●姿勢・運動に関わる神経システム●
 以前にもブログで書いたことがあるが、我々が行う運動や姿勢のコントロールを行っている神経系は大きく2つに分類される。1つ目は主に姿勢筋緊張の調整に関わる内側運動制御系で、もう1つは随意収縮に関わる外側運動制御系である。詳しくはこちら

今回は外側運動制御系の主力である外側皮質脊髄路についてまとめたいと思う。

●外側皮質脊髄路●
 外側皮質脊髄路は運動野である4野を起始とし、延髄の錐体で交差し対側の背側索を下降する。経路は下記に示す。(イラストで分かる神経症候より)

●脳画像●
 MRI画像上の外側皮質脊髄路を下記に示す。図に示した領域に病変があると反対側の随意収縮の障害が出現する。

 
 
 
脳画像から運動障害を予測すると共に、機能予後に関しても判断する必要がある。機能の改善が見込める場合は、代償動作の獲得を目指すのではなく、機能改善や効率的な動きの改善に向けたアプローチが必要である。

以上、脳画像から見る外側運動制御系の障害についてのまとめを行った。


本日はここまで。

続きはまた次回。。。

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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法




2016年5月1日日曜日

ボバースの文献⑤:重度の運動障害を呈した脳卒中患者に対する介入‐ボバースコンセプトに基づいた早期座位・立位・歩行練習‐

引き続き、ボバースに関する文献を紹介したいと思う。

 現在の脳卒中患者に対する治療のエビデンスでは、課題指向型訓練を集中的に反復して行うことにより、運動の回復を促進することが示されている。しかし、重度の運動障害を呈した患者では、特定の運動課題を実施できないものも多い。今回の文献は、重度の運動麻痺やバランス障害を呈した脳卒中患者に対して、ボバースコンセプトに基づいた早期の座位・立位・歩行練習が効果があるかどうかを示したものである。


重度の運動障害を呈した脳卒中患者に対する介入‐ボバースコンセプトに基づいた早期座位・立位・歩行練習‐
 
 ボバースコンセプトは、中枢神経系の障害による姿勢コントロールと運動、機能化に問題を持つ個人に対する評価と治療のための問題解決アプローチと定義されている。ボバースコンセプトの目的は、より効率的な方法を提案することであり、環境やハンドリングを通して入力される感覚を変化させることで、問題点を明らかにし、運動課題に対するパフォーマンスを改善させることである。今回、ボバースコンセプトに基づいた早期の座位・立位・歩行練習などの動的バランス練習が静的なバランス練習と比較し運動やバランス能力の改善に効果があるかどうかを検証した。
方法
 対象は、入院中の脳梗塞および脳出血患者のうち、基準を満たした48名であった。本研究の基準は①年齢が60歳~74歳であること②STREAMの総合点が5点以下の重度な運動障害を認めたこと③入院1ヵ月以内に理学療法を開始したこと④バイタルサインおよび神経徴候が安定していること⑤不安定な内部疾患を呈していないことであった。対象者はボバースコンセプトに基づいた静的なバランス練習を中心に行う群(A群)24名とボバースコンセプトに基づいた動的なバランス練習を中心に行う群(B群)24名にランダムに割り振られた。
 評価項目には、STREAMとBerg balance scale(以下BBS)を利用した。評価の測定は、介入前と4週間後、8週間後に実施した。
 どちらの介入もボバースコンセプトに基づき運動やバランスに対する治療を行った。運動やバランスを改善するために、筋のアライメントや長さ、弾性力の改善を図り、姿勢筋緊張の改善を図った。運動課題の難易度を調整するために、姿勢コントロールが可能な姿勢から治療を開始し、難しい場合はハンドリングによるコントロールを行った。A群は、静的な座位バランス、動的な座位バランス、静的な立位バランス、動的な立位バランス、歩行の順で治療が行われ、自力で可能にならなければ次に進まなかった。B群は、静的な座位・立位バランスが困難な場合は、動的な座位・立位バランス練習を実施した。静的な座位バランスが可能となれば立位バランス練習を、静的な立位バランスが可能となれば歩行練習を実施した。どちらの介入も50分の理学療法を週5回、8週間実施した。
結果
 年齢や発症から開始までの期間、開始前のSTREAMの点数、開始前のBBSスコアは2群間に差を認めなかった。4週後のSTREAMの点数は、A群は上肢が9.5±9.4、下肢が12.7±6.3、基本動作項目が10.8±3.6、総合点が11.0±4.5であった。B群は上肢が10.8±12.0、下肢が24.4±11.1、基本動作項目が20.4±9.7、総合点が18.5±9.8であった。8週後のSTREAMの点数は、A群は上肢が33.3±15.9、下肢が35.6±11.1、基本動作項目が32.2±8.7、総合点が33.7±10.5であった。B群は上肢が33.9±20.5、下肢が53.5±14.1、基本動作項目が67.9±14.9、総合点が51.8±14.6であった。4週後および8週後のどちらも下肢項目と基本動作項目、総合点はB群がA群より有意に高値を示したが、上肢項目は有意差を認めなかった。4週後のBBSスコアはA群が3.3±1.3でB群が11.8±6.8であった。8週後のBBSスコアはA群が12.1±5.5でB群が34.1±11.4であった。4週後および8週後のどちらもB群がA群より有意に高値を示した。
まとめ
 ボバースコンセプトに基づき、早期から静的な座位・立位バランスが困難な時期から、動的な座位・立位バランスや歩行練習を実施することにより、運動とバランス能力の改善を認めた。ボバースコンセプトの基づき早期から動的な座位・立位バランスや歩行練習を実施することが重度の運動障害を呈した脳卒中患者に対して有効であることが示された。

参考文献
 Tang Q, Tan L, Li B, Huang X, Ouyang C, Zhan H, Pu Q, Wu L:Early sitting, standing, and walking in conjunction with contemporary Bobath approach for stroke patients with severe motor deficit. Top Stroke Rehabil. 2014 Mar-Apr;21(2):120-7.

 以上、重度の運動障害を呈した脳卒中患者に対するボバースコンセプトに基づいた介入についての文献を紹介した。今回の文献は、ボバースコンセプトに基づいた介入同士の比較であったため、ボバースコンセプトによる介入が他のアプローチと比較して有効かどうかはわからないが、姿勢コントロールや難易度の調整等を行いながらアクティブに活動が行えるように誘導するなどのボバースコンセプトに基づいた介入は、重度の運動障害を呈する脳卒中患者に対しても有効なアプローチであることが示された文献であると思う。


本日はここまで。

続きはまた次回。。。

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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法