2016年10月1日土曜日

課題指向型アプローチ

 今度院内の勉強会で課題指向型アプローチの講義を行う事となった。
 今回は、その講義に向けてまとめたものを紹介したいと思う。

●リハビリテーションの歴史●
 中枢神経疾患に対するリハビリテーションモデルは、科学の進展によって変化を続けている。最初のパラダイムシフトは、神経発達学(反射・階層理論)に基づくアプローチとファシリテーションテクニックである。この変化により、従来、筋再教育に基づくリハビリテーションとして、一つの筋や関節の動きのみに目を向けていたところから、中枢神経系にも目を向けたアプローチが展開されるようになった。もう一つのパラダイムシフトは、システム理論と運動学習に基づくアプローチである。この変化により、中枢神経系の働きと身体の動きだけでなく、環境下における行動についても理論的に考えられるようになった。システム理論と運動学習に基づくアプローチは課題指向型アプローチを称され、代表的なものとしては、Shumway-Cookによる「システムアプローチ」やCarr&Shepherdによる「運動再学習プログラム」、CI療法などがある。


●反射・階層理論●
 反射・階層理論は、反射の発達過程における消失と出現という観点から運動コントロールを説明したものである。発達の過程において、原始反射が消失して、立ち直り反応が出現。立ち直り反応が消失して、平衡反応が出現する。この消失と出現は上位中枢が下位中枢を抑制することで成し遂げられているという理論である。この理論に基づき、中枢神経疾患の患者は、上位中枢の障害により下位中枢への抑制が利かなくなり、消失していた反射・反応が出現すると考えられた。
 そのため、この理論に基づく介入は、異常な反射(異常な運動パターン)を抑制し、正常な運動がコントロールができるよう誘導するように組み立てられており、運動レベルを下位から上位へ転化させることを目標としている。




●システム理論●
 システム理論は、ニコライ・ベルシュタインが提唱した理論で、運動が以下の4つのレベルに分類されている(①筋緊張のコントロール②筋‐関節の協調運動③空間での動作④行為)。
 この理論の特徴は、我々が行う巧みな運動・行為は、筋‐関節の協調的な動きのみで成立するのではなく、その動き方は、環境や課題によって変化するということである。そのため、空間での動作や行為は、その課題や環境下において、効率的なものが選択されており、下位を抑制するのではなく、より良いものを強化すると考えられた。
 この理論に基づいた介入は、協調的な動きを一部失っても、空間での動作や行為は、練習や経験によって、新たな方法を選択できるという理論に基づいており、さまざまな場面での練習や経験を重視している。





●神経発達学(反射・階層理論)の問題点●
 運動再学習プログラムを示している「脳卒中の訓練プログラム」という書籍の中で、神経発達学(反射・階層理論)の問題点として次のスライドに示したものが記されている。



 また、システム理論に基づいた介入(運動再学習プログラム)と反射・階層理論に基づいた介入(ボバースアプローチ)を比較・検討した研究において、運動再学習プログラムで治療を行った方が、在院日数の有意な短縮と運動機能の有意な向上を認めており、ADLにおいても有意差を認めないが高値を示したことが報告されている(Langhammer Bら 2000)。
 一方、ボバースコンセプトにおいては、Lennon Sらの研究にて、ボバースコンセプトの1990年以降の変化について報告されている。その報告において、現在の成人脳卒中患者に対するボバースコンセプトでは反射・階層理論は、利用されなくなっており、課題指向型アプローチが重要な要素となっていることが報告されており、ボバースコンセプトも課題指向型アプローチの介入方法の1つであるという考え方に変化していると思われる。詳しくはこちら

●運動再学習プログラム●
 運動再学習プログラムは①課題の選択②課題分析③課題の練習④日常生活の転移の4つの要素で構成されている。特に、①課題の選択④日常生活の転移は、どの課題指向型アプローチにおいても重要とされており、CI療法においても麻痺手の集中訓練と課題指向型アプローチと合わせて、アプローチで獲得した麻痺手の機能を生活活動に転移するための行動戦略(Transfer package)が重要な要素として挙げられている。この概念において、麻痺手を使うことがなぜ必要か?どのような実生活の動作で麻痺側上肢を使用するか?という課題を明確化することが求められており、実際に利用できているかどうかモニタリングする(日常生活に転移できているか確認する)ことが求められている。詳しくはこちら
 このように、課題の分析方法や練習方法は、各介入方法によって異なるが、①課題の選択と④日常生活への転移に関しては、重要な要素であることが分かる。以下に運動再学習プログラムの詳細ついて述べたいと思う。

①課題の選択
 治療で選択される課題は、意味があることが重要であり、本人にとって興味のそそるものでなければならず、また、挑戦的(困難で取り組み甲斐があるもの)であり、漸次、難易度が調整され、能動的な関わりを伴うものである必要がある。興味のない(本人にとって重要でない)課題においては、学習が進みにくいという報告もあるため、積極的に自ら挑戦できる課題を選択する必要がある。

②課題分析
 課題分析は、患者を観察し、動作に必要な要素(本質的要素)と患者が示す動作との比較を行い、欠けている要素について分析を行う。課題やそれに関する問題は、解剖学や生体力学、生理学、行動的要素全般にわたり分析を行うことが必要である。また、運動上の問題を患者自身が理解し、何を練習し、何を達成したらよいか理解してもらう指導も重要で、理解を促すために必要に応じて患者にも分析に参加してもらう。

③課題の練習
 全体練習を中心に行うが、必要に応じて各要素(欠けている要素)を部分練習として行う。部分練習を行った後は、必ず全体練習も行う。また、練習を行う際はa.目標と方法を明確化することb.難易度の調整(自由度の制限)が重要となる。
a.目標と方法の明確化
 全く不適当な運動や行為を練習している場合、学習を阻害し、悪い習慣を身につけてしまう場合がある。そのため、目標はなんであるか、そのためにはどのように行う必要があるか明確にしておく。患者の理解度に応じて、口頭指示デモンストレーション徒手的誘導(Handling)を利用する。
b.難易度の調整(自由度の制限)
 難しい課題に挑戦する際に、運動の一部を制限する必要がある。これにより、患者がコントロールしなければならない自由度は減少し、目標達成に関する筋活動の問題に専念することができる。これは、環境設定や徒手的誘導(Handling)により実施する。コントロールが改善すれば、運動の制限を減らしていく。その結果、患者がコントロールしなければならない自由度が増加し、難しい課題を達成することができる。
 例えば、寝返り動作であれば、臥位から開始するのではなく、クッションなどを詰め45°側臥位から開始したり、起立動作であれば、高座位から開始し、徐々に低い位置から起立ができるよう調整を行う。また、体幹介助での歩行訓練やBWSTTは、体幹のコントロールを制限し、下肢の運動に専念することができ、装具の利用は関節の自由度を制限し、股関節や体幹のコントロール、実際の歩行動作に専念することができる。練習を行う際は、何を制限し何を学習してもらうか明確にしておく必要がある。



●日常生活への転移●
 患者が学習している内容をいつでも強化し、練習を与え、それを習熟させ、さらに練習で学習したことをADLに転移する機会を与えることが重要である。そのためには、a.練習の一貫性b.自己管理下での練習・環境づくりが重要となる。
a.練習の一貫性
 セラピストとの治療以外の時間に、練習した内容が実施できないと治療効果が発揮されない。また、動作指導の方法にそれぞれ違いがあったり、矛盾があったりするのも同様で、患者に混乱をもたらすだけでなく、効果的な運動を再獲得する上で妨げとなってしまう。そのため、練習したものを繰り返し練習できるよう、病棟スタッフや家族にどのように指導しているか教育する必要がある
b.自己管理下での練習・環境づくり
 日常生活へ転移させるためには、回復に対して受動的に待つのではなく、積極的に参加できるよう促す必要がある。そのため、患者の回復への意欲が高まるような環境づくりが必要となる。
 例えば、セラピストとの治療の時間や自主練習の時間、食事、入浴などの時間がいつであるかスケジュール管理を行い、自分で練習できる時間を明らかにする。また、1週間の間にどの程度まで目標を達成するか、1ヵ月後や退院までに実生活でどのように動けるようになるかを明確にするなどのスケジュール・目標管理が必要となる。また、自主練習ができる環境と意欲をかき立てる環境づくりも大切である。


以上、課題指向型アプローチについてのまとめを行った。介入方法や治療技術に関しては、さまざまな意見があると思うが、患者を治療介入する際には、課題の選択と日常生活への転移が重要となると思う。この2つの要素を明確にし、これができる教育・環境づくりを行えば、ある程度どの治療方法を選択してもよい結果を患者に提供できると思う。


本日はここまで。

続きはまた次回。。。
●参考にした書籍●
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