2016年5月1日日曜日

ボバースの文献⑤:重度の運動障害を呈した脳卒中患者に対する介入‐ボバースコンセプトに基づいた早期座位・立位・歩行練習‐

引き続き、ボバースに関する文献を紹介したいと思う。

 現在の脳卒中患者に対する治療のエビデンスでは、課題指向型訓練を集中的に反復して行うことにより、運動の回復を促進することが示されている。しかし、重度の運動障害を呈した患者では、特定の運動課題を実施できないものも多い。今回の文献は、重度の運動麻痺やバランス障害を呈した脳卒中患者に対して、ボバースコンセプトに基づいた早期の座位・立位・歩行練習が効果があるかどうかを示したものである。


重度の運動障害を呈した脳卒中患者に対する介入‐ボバースコンセプトに基づいた早期座位・立位・歩行練習‐
 
 ボバースコンセプトは、中枢神経系の障害による姿勢コントロールと運動、機能化に問題を持つ個人に対する評価と治療のための問題解決アプローチと定義されている。ボバースコンセプトの目的は、より効率的な方法を提案することであり、環境やハンドリングを通して入力される感覚を変化させることで、問題点を明らかにし、運動課題に対するパフォーマンスを改善させることである。今回、ボバースコンセプトに基づいた早期の座位・立位・歩行練習などの動的バランス練習が静的なバランス練習と比較し運動やバランス能力の改善に効果があるかどうかを検証した。
方法
 対象は、入院中の脳梗塞および脳出血患者のうち、基準を満たした48名であった。本研究の基準は①年齢が60歳~74歳であること②STREAMの総合点が5点以下の重度な運動障害を認めたこと③入院1ヵ月以内に理学療法を開始したこと④バイタルサインおよび神経徴候が安定していること⑤不安定な内部疾患を呈していないことであった。対象者はボバースコンセプトに基づいた静的なバランス練習を中心に行う群(A群)24名とボバースコンセプトに基づいた動的なバランス練習を中心に行う群(B群)24名にランダムに割り振られた。
 評価項目には、STREAMとBerg balance scale(以下BBS)を利用した。評価の測定は、介入前と4週間後、8週間後に実施した。
 どちらの介入もボバースコンセプトに基づき運動やバランスに対する治療を行った。運動やバランスを改善するために、筋のアライメントや長さ、弾性力の改善を図り、姿勢筋緊張の改善を図った。運動課題の難易度を調整するために、姿勢コントロールが可能な姿勢から治療を開始し、難しい場合はハンドリングによるコントロールを行った。A群は、静的な座位バランス、動的な座位バランス、静的な立位バランス、動的な立位バランス、歩行の順で治療が行われ、自力で可能にならなければ次に進まなかった。B群は、静的な座位・立位バランスが困難な場合は、動的な座位・立位バランス練習を実施した。静的な座位バランスが可能となれば立位バランス練習を、静的な立位バランスが可能となれば歩行練習を実施した。どちらの介入も50分の理学療法を週5回、8週間実施した。
結果
 年齢や発症から開始までの期間、開始前のSTREAMの点数、開始前のBBSスコアは2群間に差を認めなかった。4週後のSTREAMの点数は、A群は上肢が9.5±9.4、下肢が12.7±6.3、基本動作項目が10.8±3.6、総合点が11.0±4.5であった。B群は上肢が10.8±12.0、下肢が24.4±11.1、基本動作項目が20.4±9.7、総合点が18.5±9.8であった。8週後のSTREAMの点数は、A群は上肢が33.3±15.9、下肢が35.6±11.1、基本動作項目が32.2±8.7、総合点が33.7±10.5であった。B群は上肢が33.9±20.5、下肢が53.5±14.1、基本動作項目が67.9±14.9、総合点が51.8±14.6であった。4週後および8週後のどちらも下肢項目と基本動作項目、総合点はB群がA群より有意に高値を示したが、上肢項目は有意差を認めなかった。4週後のBBSスコアはA群が3.3±1.3でB群が11.8±6.8であった。8週後のBBSスコアはA群が12.1±5.5でB群が34.1±11.4であった。4週後および8週後のどちらもB群がA群より有意に高値を示した。
まとめ
 ボバースコンセプトに基づき、早期から静的な座位・立位バランスが困難な時期から、動的な座位・立位バランスや歩行練習を実施することにより、運動とバランス能力の改善を認めた。ボバースコンセプトの基づき早期から動的な座位・立位バランスや歩行練習を実施することが重度の運動障害を呈した脳卒中患者に対して有効であることが示された。

参考文献
 Tang Q, Tan L, Li B, Huang X, Ouyang C, Zhan H, Pu Q, Wu L:Early sitting, standing, and walking in conjunction with contemporary Bobath approach for stroke patients with severe motor deficit. Top Stroke Rehabil. 2014 Mar-Apr;21(2):120-7.

 以上、重度の運動障害を呈した脳卒中患者に対するボバースコンセプトに基づいた介入についての文献を紹介した。今回の文献は、ボバースコンセプトに基づいた介入同士の比較であったため、ボバースコンセプトによる介入が他のアプローチと比較して有効かどうかはわからないが、姿勢コントロールや難易度の調整等を行いながらアクティブに活動が行えるように誘導するなどのボバースコンセプトに基づいた介入は、重度の運動障害を呈する脳卒中患者に対しても有効なアプローチであることが示された文献であると思う。


本日はここまで。

続きはまた次回。。。

書籍の紹介
脳卒中片麻痺患者に対する理学療法


0 件のコメント:

コメントを投稿