今回は皮質網様体路の起始であるとされている運動前野に関する文献を紹介したいと思う。
今回の文献は、運動前野が予測的な姿勢コントロールやステッピング肢の選択に関わっているか否かを脳卒中患者を対象に検証したものである。
脳卒中患者のステッピング課題に対する予測的な姿勢コントロールとステッピング肢の選択における運動前野の役割
サルやヒトの研究において、運動前野(PMC)は、上肢の視覚を伴う運動の予測的な姿勢コントロールや運動肢の選択に重要な役割を担っていることが報告されている。しなしながら、下肢や歩行に関与する予測的な姿勢コントロールにPMCが関わっているか否かは明らかでない。今回の研究の目的は、PMCが障害されている脳卒中患者を対象に、PMCの障害がステッピング動作における予測的な姿勢コントロールとステッピング肢の選択に影響を与えるかどうかについて調査することである。
方法
対象は、PMC病変患者8例とPMCに病変のない患者7例、2群に年齢と性別等の群属性が似通っている健常成人8例とした。対象の基準は①CTまたはMRI画像により神経内科医と放射線科医によって大脳皮質の虚血性脳卒中と診断されたもの②介助なしで両側共に前方へのステッピングが行えるもの③座位で足関節背屈ができるもの④MMSEが24点以上のものとした。すべての対象者は、ほかの神経疾患を有しておらず、ステッピング課題に影響を与える筋・骨格系や心肺疾患を有していなかった。PMC病変患者群とPMCに病変のない患者群の病巣は片側のみであった。
ステッピング課題は、赤い信号が青い信号に変化したら動作を開始するよう指示された。左右どちらの下肢をステッピングするか事前に知らされている課題の反応時間(SRT)と左右どちらの下肢をステッピングするか知らされていない選択型の反応時間(CRT)を計測した。
信号が変化してから前脛骨筋(TA)の収縮が起こるまでの時間(潜時)と反応時間の測定を行った。TAはステッピング動作の主要な先行的な姿勢筋であるという報告がされているため、今回測定筋にTAを選択した。
結果
SRTとCRTどちらの条件においても、PMC病変患者群は、健常成人群と比較し、麻痺側および非麻痺側下肢のTAの潜時と反応時間が有意に長かった。また、PMC病変患者群は、PMCに病変のない患者群と比較し、麻痺側下肢のTAの潜時と反応時間が有意に長かった(下図B,C,D)。
ステッピング下肢の選択の精度に関しては、3群間に有意差を認めなかった(下図A)。
まとめ
ステッピング課題において、動的姿勢コントロールを確実にするための予測的な姿勢コントロールが実行されるまでステッピング動作の開始は遅れることが報告されている。そのため、ヒトの2足歩行を想定した場合、立脚肢の予測的な姿勢コントロールなしではステッピング動作は困難である。今回の研究において、PMC病変患者群が、PMCに病変のない患者群や健常成人群と比較し、長い潜時と反応時間を示したことにより、PMC病変により両下肢の予測的な姿勢コントロールの実行が遅れることが示された。
今回の結果より、PMCがヒトのステッピングという特異的な課題の予測的な姿勢コントロールに関与していることが示唆された。また、片側のPMC病変が両側下肢の予測的な姿勢コントロールの発生を遅らせることが示唆された。
参考文献
Chang WH, Tang PF, Wang YH, Lin KH, Chiu MJ, Chen SH:Role of the premotor cortex in leg selection and anticipatory postural adjustments associated with a rapid stepping task in patients with stroke.Gait and Posture 2010,32(4);487-493
以上、ステッピング課題の予測的な姿勢コントロールに対する運動前野の役割について報告された文献の紹介を行った。今回の報告より、ヒトのステッピングや歩行という課題においても、運動前野やそれに続く皮質網様体路が損傷されると両側の予測的な姿勢コントロールに障害が起こることが示された論文であると思う。
運動前野や皮質網様体路の損傷により、予測的な姿勢コントロールが障害された患者においては、歩行練習のみでなく、予測的な姿勢コントロール改善へ向けた治療介入が必要と考える。
本日はここまで。
続きはまた次回。。。
書籍の紹介
脳卒中片麻痺患者に対する理学療法