ボバースコンセプトにおけるファシリテーションを実践していくためには、感覚システムの理解が重要である。
●姿勢筋緊張●
姿勢筋緊張は内側運動制御系によってコントロールされている。内側運動制御系は、脳幹からの下行路が主で、脳幹からのコントロールが重要とされている。
しかし、姿勢筋緊張は脳幹からのコントロールだけでなく、筋や皮膚などの末梢の受容器とのやり取りを通じて脊髄レベルでもコントロールされている。そのため、ボバースコンセプトにおけるハンドリング(ファシリテーション)では、この脊髄レベルでコントロールするシステムを利用し、姿勢筋緊張を変化させ、パフォーマンスの向上を図っている。
筋や皮膚などは受容器としての働きを持つ。固有感覚情報を受け取る受容器は筋紡錘とゴルジ腱器官がある。筋紡錘は筋線維に対して並列に配列されており、筋の長さや変化の速さを感知する。ゴルジ腱器官は筋線維に対して直列に配列されており、筋張力を感知する。
皮膚受容器は無毛部(手掌や足底)と有毛部では受容器が異なる。無毛部は、2点識別や立体覚を感知できるようマイスナー小体やメルケル盤などが多く存在する。有毛部は、皮膚が伸長されるなどの変化を感知できるようルフィニ終末や毛包受容器などが多く存在する。
また、関節内にある関節受容器は主に最終可動域で反応し、位置覚や運動覚にはほとんど貢献していないと言われている。そのため、関節角度は主に皮膚感覚や固有感覚にて感知されている。
●脊髄レベルでの筋緊張コントロール●
脊髄レベルでの筋緊張コントロールは主に反射によって行われている。反射に関わる求心路は、伸張反射や相反抑制に関わるⅠa線維とⅠb介在ニューロンを介すⅠb線維がある。Ⅰa線維は主に筋紡錘からの刺激を伝える線維であり、ストレッチ刺激に反応する。筋へのストレッチ刺激は、ストレッチされた筋の筋緊張を促通すると共に、Ⅰa介在ニューロンを介して拮抗筋を抑制する。この抑制システムを相反抑制と呼ぶ。
Ⅰb線維は主にゴルジ腱器官からの刺激を伝える線維である。この刺激はⅠb介在ニューロンを介して筋へ作用する。
Ⅰb線維による反射は抑制に働くと学生時代学んだが、(卒業したのがずいぶん前なので今は違うかもしれないが・・・)Ⅰb介在ニューロンは中枢神経系によりコントロールされており、活動場面によって抑制と促通の切り替えが行われる。例えば、ジャンプの着地の場面を想像してもらいたい。ジャンプの着地の際、筋および腱器官にはかなり強い刺激が加わる。腱への刺激が加わり、筋緊張が抑制にコントロールされると体を支えることができず、転倒してしまうことが想像できると思う。これは、起立や歩行の立脚時も同様である。つまり、Ⅰb介在ニューロンへの刺激は、荷重時では促通に働くという事である。逆に歩行の遊脚時などの空間でコントロールする場合は抑制に働く。
※空間的加重:1つのニューロンに別々に収束する刺激を同時に入力することでシナプス電位が大きくなる現象。
さらに、ゴルジ腱器官の閾値は高く他動的な介入では発火しにくいとも言われており、他動的な介入でⅠb介在ニューロンを発火させるためには、空間的な加重が必要と思われる。
・筋緊張促通⇒筋へのストレッチ刺激、荷重下にてゴルジ腱器官へ刺激をする
・筋緊張抑制⇒拮抗筋を促通する(相反抑制)、空間位で皮膚受容器・関節受容器・ゴルジ腱器官を刺激する。
以上、ファシリテーションに必要な知識のまとめを行った。
次回は、もう少し臨床に則した形でのまとめを行いたいと思う。
書籍の紹介
脳卒中片麻痺患者に対する理学療法