2016年8月8日月曜日

海外の文献③(慢性期脳卒中患者における皮質網様体路の機能的役割)

 今回も皮質網様体脊髄路に関する海外の文献を紹介したいと思う。

 脳卒中患者の20~30%は歩行障害を有していると言われている。歩行能力の重要な神経路として、皮質網様体路と網様体脊髄路からなる皮質網様体脊髄路が知られている。今回紹介する文献は、拡散テンソル画像を用いて、慢性期脳卒中片麻痺患者の皮質網様体路と歩行能力の関係性を調査したものである。


慢性期脳卒中片麻痺患者における皮質網様体路の機能的役割


 脳卒中患者の皮質網様体路の損傷についての報告はいくつがされているが、歩行能力との関係性についてはほとんどわかっていない。本研究では、拡散テンソル画像を用いて、慢性期脳卒中片麻痺患者の皮質網様体路と歩行能力の関係性を明らかにすることを目的とした。
方法
 対象は、脳卒中患者54名(男:39名、女:15名、平均年齢:54.4±32.75歳)とコントロール患者(健常成人)20名(男:10名、女:10名、平均年齢53.1±33.72歳)とした。脳卒中患者は以下の基準に従って登録されている209名の中から選ばれた。
①初発の脳卒中
②年齢が30~75歳までのもの
③脳卒中発症3か月以上のもの
④皮質下およびテント上(放線冠や基底核、内包)に限定される出血や梗塞があるもの
⑤脳卒中発症24時間以内に自力であるくことが困難であったもの
⑥拡散テンソル画像上で完全な錘体路の損傷を示したもの
 運動機能の評価は拡散テンソル画像を撮影した同時期に行われた。歩行能力は、機能的歩行カテゴリースケール(FAC:0~5点)によって評価された。運動機能は、Motricity Index(以下、MI;MMTを基本とした運動機能評価法:最大100点)によって評価された。
 今回、歩行能力によって対象者を2つのサブグループに分類した。
サブグループA:歩行困難なもの(FAC:0~2)
サブグループB:歩行可能なもの(FAC:3~5)
結果
 54名の対象者のうち、39名(72.2%)が脳出血であり、残りの15名(27.8%)が脳梗塞であった。すべての運動機能において、脳出血と脳梗塞の間に有意差は認められなかった。サブグループ分類ではサブグループAが20名で、サブグループBが34名であった。
 サブグループAのすべての対象者とサブグループの対象者のうち30名は、損傷側の大脳半球で皮質網様体路の損傷が認められた。しかしながら、発生率は両群に有意差はなかった。加えて、サブグループBにおいて損傷側の大脳半球の皮質網様体路が残存している患者は、損傷している患者と比較し、FACとMIに関して有意に高い値を示した。
 サブグループBの損傷を受けていない大脳半球の皮質網様体路の線維量は、サブグループAやコントロール群と比較し、有意な増加を認めた(表1、図1)。
 神経路のDTIパラメーターと運動機能の相関の概要を表2に示す。損傷側の大脳半球の皮質網様体路の線維量がFACやMIと相関を示すわけではなかった。対照的に、損傷を受けていない大脳半球の皮質網様体路の線維量は、FACと正の相関を示し、MIに関しても緩やかな正の相関を示した。




図1:皮質網様体路および皮質脊髄路の拡散テンソル画像
A:サブグループの皮質網様体路および皮質脊髄路の拡散テンソル画像(青矢印:脳卒中が原因で線維が遮断されている)。サブグループBでは、サブグループAやコントロール群と比較し、損傷を受けていない大脳半球の皮質網様体路の線維量が増加している(緑矢印)。
まとめ
 今回、慢性期脳卒中患者における皮質網様体路の歩行に関連した機能的な役割について調査した。今回の研究より、損傷を受けていない大脳半球の皮質網様体路の線維量の増加が慢性期脳卒中患者の歩行能力に関連があることが示唆された。しかしながら、過去の研究では、損傷側の運動前野の活性化が歩行能力の改善に有意な相関を示したという報告もある。これは、今回重度の錘体路の損傷を呈した患者のみを対象としたことが影響したかもしれない。今後は、軽症患者を対象とした皮質網様体路の機能的な役割を明らかにする必要があると思われた。また、前庭脊髄路などの歩行に関わりがあると言われている神経路に関する評価が行われていないため、その他の経路に関しても今後調査する必要がある。
参考文献
Jang SH,Chang CH,Lee J,Kim CS,Seo JP,Yeo SS:Functional role of the corticoreticular pathway in chronic stroke patients.Stroke 2013,44;1099-1104

 以上、慢性期脳卒中患者における皮質網様体路の歩行に関連した機能的役割についての報告を行った文献を紹介した。皮質網様体路は動作に先行する予測的な姿勢制御に関わる神経路であると言われており、同側を下降するものや反対側を下降するものなどがあり、機能的な役割もさまざまであると言われている。今回の研究結果より非損傷側の大脳皮質より始まり、同側を下降し、麻痺側といわれている上下肢・体幹の先行性の姿勢コントロールに働くと考えられている皮質橋網様体脊髄路の活性化が重要である可能性が考えられた。



本日はここまで。

続きはまた次回。。。

書籍の紹介
脳卒中片麻痺患者に対する理学療法


2016年8月1日月曜日

第6回ボバース研究会学術大会


 7月30日、31日に大阪で行われた第6回ボバース研究会学術大会に参加した。前年度に引き続き、今回も演題発表をさせて頂いた。
 
 今回の発表では多くの先生より、アドバイスを頂き、大変勉強になった。今回の発表と通じて、①患者望む課題を明らかにすること②その課題に必要な構成要素を明らかにすること③構成要素と構成要素のConnectionを図るためのPart taskを明らかにすることの難しさと重要性を改めて実感した。
 私たちの行う治療は、ただ機能改善や構成要素の改善を図ることではなく、患者の望む活動を達成するために、患者と共に問題点を共有し、段階付けをしながら、構成要素と構成要素を繋いでいくことであると再認識した。
 
 
 2日目には高草木先生の神経生理学の講演があった。何度か高草木先生の講演を聞きに行かせて頂いているが、今まで聞いたことのない話も盛り込まれていた。高草木先生の話は分かりやすく、クリアに頭の中に入ってきたが、臨床に生かせるよう今後も勉強を深めていく必要があると感じた。
 
 
 いずれにせよ、大変濃い2日間を過ごさせて頂いた。この気持ちが熱いうちに様々なことに取り組んでいこうと思う。



本日はここまで。

続きはまた次回。。。

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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法