前回に引き続き、ボバースに関する論文を紹介したいと思う。
今回紹介する論文は、ハンドリングによる歩行誘導の即時効果について示したものである。
片麻痺患者の歩行に対する治療の即時効果について(杖歩行および杖なし歩行との比較)
ボバースセラピスト(以下NDT)は歩行能力再建に向けて、左右対称的な歩行や筋緊張の調整を図りながら、効率的な歩行パターンの再獲得を目的に介入を行っている。この研究は、歩行ハンドリングにおける治療効果について明らかにすることを目的としている。
対象と方法
対象は、発症平均2.2ヶ月(1.3ヶ月~3.8ヶ月)の慢性期脳卒中片麻痺患者22名である。すべての対象は自力歩行が可能であるが、下肢伸展方向への姿勢筋緊張の高まりや、遊脚時に骨盤を持ち上げるなどの特徴を認めた。
測定は、3つの条件をランダムに行った。条件は①杖なしでの歩行②杖歩行③セラピストによるハンドリングでの歩行である。ハンドリングを行うセラピストは、NDTであり、脳卒中片麻痺の治療に数年関わっている者であった。歩行ハンドリングでは、患者がより効率的に歩けるように、骨盤より誘導を行いながら以下の点を意識しながら実施した。
・麻痺側立脚期においては①麻痺側への重心移動②麻痺側股関節の伸展③麻痺側膝関節の過伸展の予防を、麻痺側遊脚期においては、体幹を抗重力伸展位に保つこと意識した。
測定項目は、歩行速度とストライド長、ケイデンス、立脚時間、左右対称性、股関節屈伸角度、歩行中の下肢筋電図(前脛骨筋・下腿三頭筋・大腿二頭筋・外側広筋・中殿筋)とした。
また、治療後の長期的な効果を検出するために、5名を対象に治療1時間後の杖なし歩行の評価を行った。
結果
杖なし歩行と杖歩行の比較では、すべての項目において有意な差を認めなかった。セラピストによるハンドリング中の歩行は、歩行速度の改善とストライド長の延長、麻痺側の単脚支持期の延長、非麻痺側の立脚期の減少、左右対称性の改善、股関節伸展角度の増大、荷重時の下腿三頭筋・外側広筋・大腿二頭筋・中殿筋の筋活動向上を認めた。
治療介入1時間後の評価では、すべての項目において有意な差を認めなかった。
まとめ
セラピストによるハンドリングでの歩行の間、立脚期の様々な筋活動の向上と共に、バランスのとれた歩行パターンが確認できた。麻痺側下肢の立脚時間延長と股関節伸展角度の増大、左右対称性の改善、歩行速度の向上に対して、治療介入の即時的な効果があることが示された。
参考文献
Hesse S, Jahnke MT, Schaffrin A, Lucke D, Reiter F, Konrad M:Immediate effects of therapeutic facilitation on the gait of hemiparetic patients as compared with walking with and without a cane. Electroencephalogr Clin Neurophysiol. 1998 Dec;109(6):515-22.
以上、ハンドリングによる歩行誘導の即時効果についての論文を紹介した。
今回紹介した文献は古い文献ではあるが、ハンドリングによる歩容の変化を示したものであった。
歩行を遂行するためには、下肢の支持性とステップ動作、バランス能力が必要である。介助下での歩行は、バランスの自主学習が困難であると言う理由で、否定的にとらえられるとこもある。
一方、近年、下肢の支持性やバランスの側面を排除した免荷式のトレッドミルやロボットを利用したアプローチが報告されている。これらは、ステップ動作を練習することにより、CPGの賦活やタイミングのよい選択的な筋活動を学習することを目的としており、効果も示されている。
ハンドリングでの歩行練習は、ステップ動作の練習として利用でき、CPGの賦活やタイミングのよい選択的な筋活動の学習を促す事ができる可能性があると考える。
本日はここまで。
続きはまた次回。。。
書籍の紹介
脳卒中片麻痺患者に対する理学療法
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