今回は脳卒中片麻痺患者の予後予測についてまとめたいと思う。
予後予測の研究は数多くあるが、今回は歩行獲得に関して私が参考にしているものを紹介したいと思う。
●先行研究●
初診時座位バランス機能が良好であれば約3週間、座位保持可能であれば6週間で歩行可能となり、座位不能でも3週間以内に可能となれば2カ月で歩行レベルで自宅復帰となる(中島 1999)
発症4週までに座位が自立した症例の93.5%は歩行自立となる。また、6週以降に座位が自立した群より歩行用介助者が多くなり、7週以降より歩行自立例がなくなった(藤本 1995)
どちらも座位保持能力の評価による歩行の予後予測で、3~4週以内に座位保持が獲得できれば歩行自立となるといえる。
つまり、急性期入院中に座位保持が獲得できるか否かが、その後の歩行獲得を左右するということである。
その他にも基本動作の評価にて歩行獲得までの期間を予測したのもなどもある。
いずれにしても座位保持や立位保持の評価は、体幹機能を含んだ姿勢筋緊張の評価であり、急性期においては姿勢筋緊張のコントロールを高めることが重要であるということであろう。
以上、予後予測についてのまとめを行った。
私は今回紹介させていただだいたデータを予後予測のためというよりは、歩行獲得のために急性期リハで最低限獲得しておかなければならない能力として把握しており、最低限の目標設定として利用している。
また、今回紹介させていただいたものは、脳の損傷部位や発症直後の能力ではなく、ある程度のリハビリ期間を経て獲得した能力が歩行獲得できるか否かを左右するというものである。これは、私たち理学療法士が適切にアプローチを行い機能を高めることで、患者の機能予後を変えることができるということであり、私たちの存在意義を示すためには重要なことであると思う。
患者に真摯に向き合り、機能向上に努めることが大切であると思う。
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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法
2015年6月26日金曜日
2015年6月19日金曜日
覚醒と姿勢コントロール
当院は急性期の病院であり、覚醒・意識レベルの低下を認める症例を多く経験する。
よく新人や学生より「覚醒を上げるために坐位(立位)をとります!」という事を耳にするが、なぜ抗重力位をとると覚醒が上がるのか、理由が定かでない者も多い。
今回は抗重力位と覚醒との関わりについてまとめたいと思う。
●覚醒と脳幹網様体●
覚醒や情動などをコントロールしているのは上位脳である大脳皮質や辺縁系であるが、覚醒状態の維持には脳幹網様体の興奮が必要である。この脳幹網様体の興奮が視床を介して大脳全体を興奮させることで、覚醒状態を保ち、注意や認知、情動のコントロールが可能となる。
●脳幹網様体賦活系と神経伝達物質●
脳幹網様体賦活系の作用は、神経伝達物質によってコントロールされている。この神経伝達物質は、モノアミン(ノルアドレナリン、セロトニンなど)やアセチルコリンなどがある。
モノアミン作動系は、主に覚醒状態の維持や覚醒の開始に関連していると言われている。アセチルコリン作動系は覚醒レベルの上昇に関わり、主に新しい刺激に対して一時的に脳の興奮性を上昇させる作用があると言われている。
●姿勢筋緊張と脳幹網様体賦活系●
脳幹は覚醒のコントロールだけではなく、 自律神経や姿勢筋緊張のコントロール、摂食などにも関わっている。
特にモノアミン作動系は姿勢筋緊張のコントロールに関わっており 、 姿勢筋緊張の向上を図るような抗重力位をとることでこれらを刺激 し、神経伝達物質の放出を促すことで、覚醒の向上を図ることが可能となる。
以上、覚醒と姿勢コントロールの関わりについてのまとめを行った。
覚醒を促すためには脳幹網様体を機能させることが重要で、我々理学療法士は、姿勢変化を通じて脳幹網様体の機能活性化に関わることが可能である。覚醒を促すためにも早期より理学療法士の核である基本動作に積極的に関わっていくことが重要であると思う。
続きはまた次回。
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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法
よく新人や学生より「覚醒を上げるために坐位(立位)をとります!」という事を耳にするが、なぜ抗重力位をとると覚醒が上がるのか、理由が定かでない者も多い。
今回は抗重力位と覚醒との関わりについてまとめたいと思う。
●覚醒と脳幹網様体●
覚醒や情動などをコントロールしているのは上位脳である大脳皮質や辺縁系であるが、覚醒状態の維持には脳幹網様体の興奮が必要である。この脳幹網様体の興奮が視床を介して大脳全体を興奮させることで、覚醒状態を保ち、注意や認知、情動のコントロールが可能となる。
●脳幹網様体賦活系と神経伝達物質●
脳幹網様体賦活系の作用は、神経伝達物質によってコントロールされている。この神経伝達物質は、モノアミン(ノルアドレナリン、セロトニンなど)やアセチルコリンなどがある。
モノアミン作動系は、主に覚醒状態の維持や覚醒の開始に関連していると言われている。アセチルコリン作動系は覚醒レベルの上昇に関わり、主に新しい刺激に対して一時的に脳の興奮性を上昇させる作用があると言われている。
●姿勢筋緊張と脳幹網様体賦活系●
脳幹は覚醒のコントロールだけではなく、
特にモノアミン作動系は姿勢筋緊張のコントロールに関わっており
以上、覚醒と姿勢コントロールの関わりについてのまとめを行った。
覚醒を促すためには脳幹網様体を機能させることが重要で、我々理学療法士は、姿勢変化を通じて脳幹網様体の機能活性化に関わることが可能である。覚醒を促すためにも早期より理学療法士の核である基本動作に積極的に関わっていくことが重要であると思う。
続きはまた次回。
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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法
2015年6月13日土曜日
脳血管障害に対する装具療法
先日行われた学会で、 装具についての発表が多く行われていたので、 今回は装具についてまとめたいと思う。
現在は様々な装具・継手が開発されており、 その利用方法も様々である。
今回は私の装具に対する考えをまとめていく。
●装具の選択●
まずは装具利用に対する私の意見を述べたいと思う。
近年は長下肢装具が再び(?)クローズアップされることが多く、先日の学会でもシンポジウムや研究発表で多く議論されていた。しかし、私は必ずしも長下肢装具を利用しなければならないとは思わない。例えば、ハンドリングが上手であったり、2人で介入できるなど人的な環境設定によって姿勢・運動のコントロールが可能であれば、長下肢装具などの手厚い物的な環境設定は必要ないと思う。
しかし、ハンドリングがうまくなく、人的余裕もない場合や病棟生活などの治療場面以外で機能を高まる場合には装具などの物的な環境設定が必要である。
つまり、必ずしも長下肢装具などの手厚い物的環境設定を行わないといけないわけではなく、患者の能力やセラピストの能力に応じて環境因子を整えながら治療を展開することが大切であると思う。
●治療用装具と機能代償用装具●
装具には治療用装具と機能代償用装具という2つの利用目的がある。
治療用装具は、歩行獲得を目指すための運動学習を促すことを目的とする利用方法で、装具による適切なアライメントの矯正および関節自由度の制約により物的な環境因子を整え、課題の難易度の調整を行うものである。
機能代償用装具は、障害により失った機能を代償することを目的とする利用方法で、患者の生活スタイルに合ったADLを最大限に発揮できるよう調整を行うことが求められる。
装具の選択の部分で述べたことと重なるところはあるが、治療用装具と機能代償用装具では利用目的が異なるため、治療場面と生活場面(病棟生活も含む)では同じ装具を利用しないといけないわけではない。特に治療場面ではどのような神経科学的な背景に基づいて、どのような機能向上を求めているかを考えながら装具を選択する必要があると思われる。
●長下肢装具●
メリット
①膝関節の支持性が低下しているものでも麻痺側へ荷重をかけることが可能。
②モーメントアームが長くなるため、短下肢装具よりも足関節・股関節の動きを引き出すことができる。
③足関節の動きに対する股関節・体幹の動きを学習させることができる。
つまり、長下肢装具を利用すると、立脚の難易度を下げることが可能で、立脚時のダイナミックな動きを誘導することができ、足関節と股関節・体幹の感覚統合を図ることが可能である。
デメリット
①膝関節が固定されるため、立ち上がり動作や遊脚時の動作の難易度は高くなる。
②動く際の足関節・膝関節・股関節の感覚統合は困難。
●短下肢装具●
メリット
①足関節背屈角度の調整により、立脚・遊脚の難易度調整が可能。
底屈を制動 ⇒ 遊脚容易性が得られる
背屈を制動 ⇒ 立脚安定性が得られる
②剛性と制動を高めることにより、荷重時立位の安定性を得ることが可能。
③ウェッジなどの調整により側方動揺のコントロール可能。
④継手の種類によっては、足部の機能を補助することも可能。
●姿勢コントロールと装具療法●
脳卒中の治療において姿勢筋緊張のコントロールは重要であり、それはハンドリングなどによる介入も装具による介入も同様である。姿勢コントロールについてはこちら
装具を利用する1番のメリット(特に長下肢装具)は、支持性が低下している状態でも適切なアライメントを保ちながら荷重することができることである。これにより、荷重情報が背側脊髄小脳路を介して前庭核に伝えられ姿勢筋緊張の促通を図る事が可能である。つまり、装具の利用によりFeedbackによる姿勢のコントロールが可能となる。どのような神経メカニズムの学習を図っていくかを考えながら、装具療法を含めた治療方法の選択を行っていく必要があると思う。
本日はここまで。
続きはまた次回。。。
(興味のある方はこちらもどうぞ;脳卒中患者の自立を促すための装具療法)
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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法
現在は様々な装具・継手が開発されており、
今回は私の装具に対する考えをまとめていく。
●装具の選択●
まずは装具利用に対する私の意見を述べたいと思う。
近年は長下肢装具が再び(?)クローズアップされることが多く、先日の学会でもシンポジウムや研究発表で多く議論されていた。しかし、私は必ずしも長下肢装具を利用しなければならないとは思わない。例えば、ハンドリングが上手であったり、2人で介入できるなど人的な環境設定によって姿勢・運動のコントロールが可能であれば、長下肢装具などの手厚い物的な環境設定は必要ないと思う。
しかし、ハンドリングがうまくなく、人的余裕もない場合や病棟生活などの治療場面以外で機能を高まる場合には装具などの物的な環境設定が必要である。
つまり、必ずしも長下肢装具などの手厚い物的環境設定を行わないといけないわけではなく、患者の能力やセラピストの能力に応じて環境因子を整えながら治療を展開することが大切であると思う。
●治療用装具と機能代償用装具●
装具には治療用装具と機能代償用装具という2つの利用目的がある。
治療用装具は、歩行獲得を目指すための運動学習を促すことを目的とする利用方法で、装具による適切なアライメントの矯正および関節自由度の制約により物的な環境因子を整え、課題の難易度の調整を行うものである。
機能代償用装具は、障害により失った機能を代償することを目的とする利用方法で、患者の生活スタイルに合ったADLを最大限に発揮できるよう調整を行うことが求められる。
装具の選択の部分で述べたことと重なるところはあるが、治療用装具と機能代償用装具では利用目的が異なるため、治療場面と生活場面(病棟生活も含む)では同じ装具を利用しないといけないわけではない。特に治療場面ではどのような神経科学的な背景に基づいて、どのような機能向上を求めているかを考えながら装具を選択する必要があると思われる。
●長下肢装具●
メリット
①膝関節の支持性が低下しているものでも麻痺側へ荷重をかけることが可能。
②モーメントアームが長くなるため、短下肢装具よりも足関節・股関節の動きを引き出すことができる。
③足関節の動きに対する股関節・体幹の動きを学習させることができる。
つまり、長下肢装具を利用すると、立脚の難易度を下げることが可能で、立脚時のダイナミックな動きを誘導することができ、足関節と股関節・体幹の感覚統合を図ることが可能である。
デメリット
①膝関節が固定されるため、立ち上がり動作や遊脚時の動作の難易度は高くなる。
②動く際の足関節・膝関節・股関節の感覚統合は困難。
●短下肢装具●
メリット
①足関節背屈角度の調整により、立脚・遊脚の難易度調整が可能。
底屈を制動 ⇒ 遊脚容易性が得られる
背屈を制動 ⇒ 立脚安定性が得られる
②剛性と制動を高めることにより、荷重時立位の安定性を得ることが可能。
③ウェッジなどの調整により側方動揺のコントロール可能。
④継手の種類によっては、足部の機能を補助することも可能。
●姿勢コントロールと装具療法●
脳卒中の治療において姿勢筋緊張のコントロールは重要であり、それはハンドリングなどによる介入も装具による介入も同様である。姿勢コントロールについてはこちら
装具を利用する1番のメリット(特に長下肢装具)は、支持性が低下している状態でも適切なアライメントを保ちながら荷重することができることである。これにより、荷重情報が背側脊髄小脳路を介して前庭核に伝えられ姿勢筋緊張の促通を図る事が可能である。つまり、装具の利用によりFeedbackによる姿勢のコントロールが可能となる。どのような神経メカニズムの学習を図っていくかを考えながら、装具療法を含めた治療方法の選択を行っていく必要があると思う。
本日はここまで。
続きはまた次回。。。
(興味のある方はこちらもどうぞ;脳卒中患者の自立を促すための装具療法)
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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法
2015年6月7日日曜日
第50回日本理学療法学術大会
先日、東京国際フォーラムで開催された日本理学療法学術大会に参加した。
私は2日目に発表を行ったのだが、なかなか緊張しましたねぇ。
私の発表に関しては、また後日まとめを行うとして・・・・。
今回は50回の記念大会という事もあり、多くのシンポジウムが企画されていた。
シンポジウムの中で、基礎医学の重要性とともに基礎医学を臨床応用していくことの大切さについて多く語られていた。
通常医学などでは、動物実験を含めた基礎医学の情報を基に臨床試験を経て臨床に応用される。しかし、理学療法分野では基礎医学の情報はまだまだ少なく、経験則に基づいているものが多いとの事であった。
私は2日目に発表を行ったのだが、なかなか緊張しましたねぇ。
私の発表に関しては、また後日まとめを行うとして・・・・。
今回は50回の記念大会という事もあり、多くのシンポジウムが企画されていた。
シンポジウムの中で、基礎医学の重要性とともに基礎医学を臨床応用していくことの大切さについて多く語られていた。
通常医学などでは、動物実験を含めた基礎医学の情報を基に臨床試験を経て臨床に応用される。しかし、理学療法分野では基礎医学の情報はまだまだ少なく、経験則に基づいているものが多いとの事であった。
これからの理学療法発展のために、基礎医学研究も重要であるが、臨床に携わる理学療法士としては、基礎医学の観点から治療プログラムを立案することが大切である。
1症例を大切にし、科学的な根拠に基づいた治療を行うことが重要で、症例報告を通じて基礎医学の臨床応用を発信する必要がある。
これまで神経可塑性や姿勢コントロールのメカニズムなどをまとめてきたが、その重要性を再認識させていただいた良い機会であった。
これからも科学的知見についてのまとめを継続していき、症例発表としての発信も行っていきたいと思う。
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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法
2015年6月1日月曜日
ボバースコンセプト(Locomotion)
今回はLocomotionについてまとめてみたいと思う。
歩行は、1歩足を前に出す時とその後歩行を継続する時とでは神経メカニズムが異なるとされており、ひとたび歩行運動が始まると中枢パターン発生器(Central pattern generator:CPG)の働きにより、特に動作を意識することなく半ば自動的に運動を継続することができる。
1歩前に出すためのメカニズムについてはこちら
●脊髄レベルでの筋緊張コントロール●
脊髄レベルでの筋緊張のコントロールについては、前回まとめを行ったので詳しい話は割愛するが、復習を兼ねて少しまとめてみる。感覚システムについてはこちら
筋紡錘への刺激(筋へのストレッチ刺激)に関しては、Ⅰa線維により情報伝達が行われ、ストレッチされた筋の促通および拮抗筋の抑制が行われる。また、ゴルジ腱器官への刺激はⅠb線維により情報伝達が行われ、Ⅰb介在ニューロンを介して筋緊張のコントロールが行われる。Ⅰb介在ニューロンは活動場面により働きが異なり、荷重時は促通、空間でコントロールする場面では抑制に働くとされている。
CPGを理解するためにはこれらのメカニズムに加えて反回抑制のメカニズムを理解する必要がある。反回抑制は、レンショウ細胞と呼ばれる介在ニューロンを介して行われる抑制系のメカニズムである。このレンショウ細胞はα運動ニューロンの側枝から情報を受けており、その情報を基に情報を受けたα運動ニューロン自身を抑制する。
反回抑制の伝達経路は図の通りであるが、レンショウ細胞は主動作筋の活動が高まると活性化され、主動作筋を抑制するとともにⅠa介在ニューロンにも作用し、拮抗筋への抑制(相反抑制)を抑制させる(脱抑制)。レンショウ細胞は屈筋と伸筋のスムーズな切り替えに作用していると考えられており、CPGを働かせるためにはレンショウ細胞を活性化する必要があると思われる。
また、底屈トルクに関する報告では、立脚期後半まで腓腹筋の筋線維は等尺性収縮に近い活動をしながら腱組織を伸長し、腱組織が弾性エネルギーを貯蓄する。そして、立脚相の最後に伸びたバネが縮むように腱を短縮させ、同時に生じる筋線維の短縮と合わせて筋腱複合体として大きなパワーを得ることで蹴り出しを行うことができるとされている。(川上泰雄:ウォーキングにおけるばねの役割)
荷重下で立脚終期に足関節が背屈されることで、筋線維がストレッチされることによるⅠa線維による促通とゴルジ腱器官への荷重および伸長刺激が加わり主動作筋となる下腿三頭筋の促通が図られる。これによりレンショウ細胞が活性化され、脱抑制が起こり抑制されていた前脛骨筋の運動ニューロンの活動が高まる。蹴り出し時に前脛骨筋が伸張(ストレッチ)されることにより、前脛骨筋の活動がが高まると考えられ、伸筋から屈筋への切り替えが行われると思われる。
そのため、CPGを働かせるためには腓腹筋の筋緊張を適切にコントロールしておくことが大切である。
以上Locomotion(CPGのメカニズム)についてのまとめを行った。CPGを働かせるためには、腓腹筋を求心位に保てるよう筋緊張を整えておくことが必要であり、ⅠaおよびⅠb線維へ適切に刺激を入れることが重要である。
ボバースコンセプトによるアプローチにおいて、裸足での介入が良く行われるが、裸足でのステップおよび歩行訓練は、足底皮膚感覚受容器への刺激に加えて、足関節の自由度を制限せず底背屈および内外反が行える環境にすることで、ⅠaおよびⅠb線維へ適切に刺激が入りやすいようにし、CPGが働きやすい環境にしていると考えられる。
歩行獲得を目指す際に必ずしも歩行訓練を積極的に行わなければならないとは思わないが、歩行という課題を通じて歩行獲得へ向けてアプローチを行う際、腓腹筋を求心位に保つことが難しく、ⅠaおよびⅠb線維へ適切に刺激を入れることが難しい患者に対して歩行訓練を行い歩行獲得を目指す場合は装具等の補装具の検討も必要と私は思う。
CPGに関する別の投稿はこちら
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脳卒中片麻痺患者に対する理学療法
歩行は、1歩足を前に出す時とその後歩行を継続する時とでは神経メカニズムが異なるとされており、ひとたび歩行運動が始まると中枢パターン発生器(Central pattern generator:CPG)の働きにより、特に動作を意識することなく半ば自動的に運動を継続することができる。
1歩前に出すためのメカニズムについてはこちら
CPGは上記のようなモデルで説明されており、脊髄の中に伸筋・屈筋それぞれを司る介在ニューロンが存在し、相互に抑制結合を持つことで屈筋と伸筋の交互運動を生み出すとされている。
また、介在ニューロンは反対側の屈筋とも抑制結合を持ち、これにより左右肢の立脚と遊脚をスムーズに切り替えることができリズミカルな自動歩行が可能となると考えられている。
屈筋と伸筋を切り替えるためには、股関節屈筋および足関節底屈筋への伸長刺激および荷重刺激が重要とされており、脊髄レベルでの感覚のやり取りおよび筋緊張のコントロールが重要となる。
●脊髄レベルでの筋緊張コントロール●
脊髄レベルでの筋緊張のコントロールについては、前回まとめを行ったので詳しい話は割愛するが、復習を兼ねて少しまとめてみる。感覚システムについてはこちら
筋紡錘への刺激(筋へのストレッチ刺激)に関しては、Ⅰa線維により情報伝達が行われ、ストレッチされた筋の促通および拮抗筋の抑制が行われる。また、ゴルジ腱器官への刺激はⅠb線維により情報伝達が行われ、Ⅰb介在ニューロンを介して筋緊張のコントロールが行われる。Ⅰb介在ニューロンは活動場面により働きが異なり、荷重時は促通、空間でコントロールする場面では抑制に働くとされている。
CPGを理解するためにはこれらのメカニズムに加えて反回抑制のメカニズムを理解する必要がある。反回抑制は、レンショウ細胞と呼ばれる介在ニューロンを介して行われる抑制系のメカニズムである。このレンショウ細胞はα運動ニューロンの側枝から情報を受けており、その情報を基に情報を受けたα運動ニューロン自身を抑制する。
反回抑制の伝達経路は図の通りであるが、レンショウ細胞は主動作筋の活動が高まると活性化され、主動作筋を抑制するとともにⅠa介在ニューロンにも作用し、拮抗筋への抑制(相反抑制)を抑制させる(脱抑制)。レンショウ細胞は屈筋と伸筋のスムーズな切り替えに作用していると考えられており、CPGを働かせるためにはレンショウ細胞を活性化する必要があると思われる。
それでは、我々が歩いている際にどのようにして主動作筋の活動を高めレンショウ細胞を働かせているのだろうか?
歩行する際、立脚期前半には身体重心は減速し、後半に加速する。この加速期に足関節底屈トルクが強く作用すると言われている。また、底屈トルクに関する報告では、立脚期後半まで腓腹筋の筋線維は等尺性収縮に近い活動をしながら腱組織を伸長し、腱組織が弾性エネルギーを貯蓄する。そして、立脚相の最後に伸びたバネが縮むように腱を短縮させ、同時に生じる筋線維の短縮と合わせて筋腱複合体として大きなパワーを得ることで蹴り出しを行うことができるとされている。(川上泰雄:ウォーキングにおけるばねの役割)
荷重下で立脚終期に足関節が背屈されることで、筋線維がストレッチされることによるⅠa線維による促通とゴルジ腱器官への荷重および伸長刺激が加わり主動作筋となる下腿三頭筋の促通が図られる。これによりレンショウ細胞が活性化され、脱抑制が起こり抑制されていた前脛骨筋の運動ニューロンの活動が高まる。蹴り出し時に前脛骨筋が伸張(ストレッチ)されることにより、前脛骨筋の活動がが高まると考えられ、伸筋から屈筋への切り替えが行われると思われる。
そのため、CPGを働かせるためには腓腹筋の筋緊張を適切にコントロールしておくことが大切である。
以上Locomotion(CPGのメカニズム)についてのまとめを行った。CPGを働かせるためには、腓腹筋を求心位に保てるよう筋緊張を整えておくことが必要であり、ⅠaおよびⅠb線維へ適切に刺激を入れることが重要である。
ボバースコンセプトによるアプローチにおいて、裸足での介入が良く行われるが、裸足でのステップおよび歩行訓練は、足底皮膚感覚受容器への刺激に加えて、足関節の自由度を制限せず底背屈および内外反が行える環境にすることで、ⅠaおよびⅠb線維へ適切に刺激が入りやすいようにし、CPGが働きやすい環境にしていると考えられる。
歩行獲得を目指す際に必ずしも歩行訓練を積極的に行わなければならないとは思わないが、歩行という課題を通じて歩行獲得へ向けてアプローチを行う際、腓腹筋を求心位に保つことが難しく、ⅠaおよびⅠb線維へ適切に刺激を入れることが難しい患者に対して歩行訓練を行い歩行獲得を目指す場合は装具等の補装具の検討も必要と私は思う。
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